最新記事

北朝鮮

ウクライナ情勢が金正恩を強気に転じさせた──「31発のミサイル実験」から見えること

Time to Worry Again

2022年6月29日(水)18時11分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

兵器開発の加速は被害妄想の兆候なのか

ジェームズ・マーティン不拡散研究センター東アジア不拡散プログラムのジェフリー・ルイス部長は、こうした新型兵器の開発ペースと精密さについては「やや警戒が必要」だと考えている。金がこれらを抑止力としてだけでなく、いつか実際に使う兵器と見なしている可能性を示しているからだ。

ルイスの同僚であるジョシュア・ポラックは、北朝鮮による兵器開発の加速は「紛れもない被害妄想」の兆候の恐れがあると指摘する。「『われわれは弱くない、だから手を出すな』と警告する」ためだという。

いずれにしても懸念されるのは、各方面で想定外の行動が必要になる可能性だ。6月5日に北朝鮮が8発のミサイル実験を行った翌朝、韓国はアメリカと合同でさらに短い10分間に8発の短距離弾道ミサイルを発射し、北朝鮮を牽制した(北朝鮮に対する一般の関心は低くなっているとしても、あらゆる脅威を監視している人々は北朝鮮の動きを慎重に見守り、迅速に対応している)。

北朝鮮がより攻撃的になっているのも、ある意味では想定外と言えるかもしれない。北朝鮮の一連の動きを受けて、韓国では5月に保守派が政権を握った。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領は北朝鮮との緊張緩和を果たしたいと願っていたが、新大統領の尹錫悦(ユン・ソギョル)は協議の再開に一切関心がない。

北朝鮮が8発のミサイル発射実験を行った前日には、米韓が日本の沖縄近郊の海上で合同軍事演習を行っていた。北朝鮮のミサイル発射はこれより前に計画されていたはずだから、米韓に対抗した動きとは考えにくい。それでも金と側近は、この演習に注目したはずだ。

さらに韓国と日本は、6月29日に開かれるNATO首脳会議に招待されている。ヨーロッパとアジアにあるアメリカの同盟諸国が、安全保障の会議で一堂に会するのは初めてのこと。金の暴走を許容したロシアと中国にとっては、この動きも想定外の結果と言えるかもしれない。

そんななかで少なくとも1つ、前向きと受け取れる兆候がある。

金は党中央委員会拡大総会で国家安全保障チームを刷新し、崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官を外相に任命した。彼女はこれまで西側諸国との交渉に数多く参加し、アメリカ情勢に精通していると言われる。崔の任命は、金が交渉再開に関心を持っている兆候かもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中