最新記事

中国経済

上海ロックダウンで露呈した中国経済のアキレス腱

2022年4月22日(金)08時32分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)

ロックダウン下で不足しがちな食料の配達を待つ住民(4月13日、上海) Aly Song-REUTERS

<中国国内の物流の大半はトラック輸送、それも零細な個人事業主が自らハンドルを握るケースがほとんど。大手スーパーも仕入れを彼らに頼っている。それが行く先々でウイルスを恐れる役人に行く手を阻まれ、休業に追い込まれるなどで、高速道路を走るトラックは激減している>

新型コロナウイルスの感染拡大で厳戒態勢の上海では、一部地区で外出制限が解除されたものの、今も多くの市民が自宅に足止めされており、2400万人都市のロックダウン(都市封鎖)による混乱は一向に収束する気配がない。

一部のスーパーマーケットは営業を再開したが、1カ月以上も封鎖が続く集合住宅もあり、解除された地区もたった1人新規の感染者が出れば、即座に外出制限に逆戻りする。

新規感染者は減少傾向にあるとはいえ、不自由な生活の終わりが見えず、市民はいら立ちを募らせている。

中国政府が「ゼロコロナ政策」を続ける限り、他の主要都市でも上海のような大混乱が起きる可能性がある。過剰とも見える感染対策のおかげで、中国本土では過去2年間ウイルスを抑え込めてきたが、感染力の強いオミクロン株の登場で、ゼロコロナ戦略はあえなく破綻した。

上海のロックダウンは世界のサプライチェーンに打撃を与え続けるだろうが、最も深刻な被害が出ているのは中国国内の物流だ。

中国の経済活動を支える運送業はロックダウンで大打撃を受けている。零細業者が多く、政治的な力を持たない中国の運送業はもともと突発的な事態に弱い。新型コロナのロックダウンはこの業界の最大の弱点を突いた。

冷蔵・冷凍食品が腐る

中国では道路運送が貨物輸送の76%を占める。その担い手はほとんどがオーナー兼運転手の零細な個人事業主で、その割合はトラック運送の90%を占める(ちなみにアメリカでは約9%にすぎない)。

しかも中国の小売大手は自前の運送部門を持たず、大手スーパーでさえ個人のトラック運送業者と契約を結び、仕入れ配送を委託している。

中国のトラック保有台数は2800万台。そのほとんどは個人事業主が所有しているが、個人の運送業を取り巻く環境はここ数十年厳しさを増す一方だ。現在、個人のトラック運送業者の年収は2万ドル前後で、中国人の平均年収の2倍に近く、比較的恵まれているように見える。しかし当局の意向次第で経費が変わるため、経営は不安定で、個人経営のためコロナ禍などによる休業補償もない。加えて、多くの業者は商売道具のトラックのローン返済に追われている。

こうした状態では装備を改善する余裕もなく、冷蔵・冷凍車の購入など夢のまた夢だ。荷台の温度を適正に保って商品を顧客に届ける「コールドチェーン(低温物流)」などとても望めず、輸送中に生鮮食品が腐敗する割合が20〜30%と、先進国よりはるかに高い。これは食の安全に対する消費者の不安の一大要因ともなっている。

ロックダウンは、このコールドチェーンの不備が食料品の不足に追い打ちをかけている。配送が遅れると、冷蔵・冷凍が必要な商品は廃棄せざるを得ないからだ。

さらに、仲介業者のピンはね、恣意的に変わる高速料金、ウイルスの流入を過度に警戒する自治体の交通規制などが運送業者を苦しめる。

kawatobook20220419-cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス) ニューズウィーク日本版コラムニストの河東哲夫氏が緊急書き下ろし!ロシアを見てきた外交官が、ウクライナ戦争と日本の今後を徹底解説します[4月22日発売]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トヨタなど5社が認証不正、対象車の出荷停止 国交省

ワールド

メキシコ初の女性大統領、シェインバウム氏勝利 現政

ワールド

エルニーニョ、年内にラニーニャに移行へ 世界気象機

ワールド

ジョージア「スパイ法」成立、議長が署名 NGOが提
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 4

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 6

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 7

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...…

  • 8

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 9

    「サルミアッキ」猫の秘密...遺伝子変異が生んだ新た…

  • 10

    「娘を見て!」「ひどい母親」 ケリー・ピケ、自分の…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 4

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中