最新記事

シリア

米軍が急襲、爆死したIS指導者は「組織の裏切り者」だった

2022年2月7日(月)14時10分
アンチャル・ボーラ(ジャーナリスト)
「イスラム国」(IS)のリーダー、アブイブラヒム・ハシミ

2020年7月、米国務省はハシミに関する丈夫尾に報奨金を懸けていた US Government Handout/via REUTERS

<バイデンは「世界はより安全になる」と胸を張ったが、この男、収容施設にいた際は「模範囚」だった>

2月3日、米軍特殊部隊がシリア北西部のアトメで過激派組織「イスラム国」(IS)のリーダー、アブイブラヒム・ハシミの潜伏先を急襲した。

2時間の銃撃戦の末、ハシミは家族と共に自爆し、女性や子供など13人が死亡した。

作戦の成功により、米国民と同盟国の安全が守られ、「世界はそれまでより安全な場所になる」と、バイデン米大統領は胸を張った。

しかし、ハシミの死が「テロとの戦い」の大きな転換点になるという見方は現実を見誤っている。

ハシミは、イラク北部タルアファルのトルコ系住民中心の地区で生まれた(本名はアミル・ムハンマド・サイード・アブダル・ラーマン・アル・マウラ)。ISでの経験は長い。大学でイスラム法を学び、2007年にイスラム法の教師としてISの前身となる組織に加わった。

その後、ISの最強硬派としてイスラム法の厳格な解釈を主張し、少数宗派であるヤジディ教徒の奴隷化と大量殺戮を推し進めた。ハシミはIS内部で急速に頭角を現し、数々の要職を担った。

しかし、2008年の時点では、現在のような大出世は想像できなかった。

その頃、ハシミは、米軍がイラク南部に設けていた収容施設キャンプ・ブッカに収容されていた。

収容施設でハシミは「模範囚」だった。当時ナンバー2だったアブ・カスワラ・アル・マグリビ(08年に米軍の攻撃により死亡)をはじめとするIS幹部や関係者88人の容貌や立ち回り先、交友関係などの詳細な情報を米軍に提供したのだ。

ハシミは自分を救うために仲間を裏切ったと、米陸軍士官学校の対テロ戦センターで研究部長を務めるダニエル・ミルトンは指摘している。

ISに復帰した後のハシミは、失われた信用を取り戻そうと躍起になり、ISの勢力回復に必死になったのだろう。

2019年に米軍の急襲作戦により前指導者のアブ・バクル・アル・バグダディが死亡した後、ハシミがリーダーの地位を引き継ぐと、ISによる攻撃は激しさを増していった。2021年には、シリアだけで300件以上の武力攻撃があった。

そしてこの1月には、シリア北部ハサカの刑務所を襲撃した。

これは、2019年にISがシリア東部のバグズ村で最後の拠点を失って以来、最も本格的な攻撃だった。ISのメンバー5000人が収容されていた刑務所を数百人の戦闘員が襲撃し、囚人を解放したとされる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル156円台へ急上昇、日銀会合後に円安加速 34

ビジネス

日銀、政策金利の据え置き決定 国債買い入れも3月会

ワールド

米、ネット中立性規則が復活 平等なアクセス提供義務

ワールド

ガザ北部「飢餓が迫っている」、国連が支援物資の搬入
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中