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北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す

2021年12月9日(木)16時35分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

実はインドにしても同じことなのである。

11月26日、「中国・ロシア・インド(中露印)外相第18回会議」がオンラインで開催され、35か条に及ぶコミュニケが発布された。

その第34条には「外相たちは中国が2022年に北京冬季オリンピック・パラリンピックを開催することを支持する」と明示してある。

すなわちインドは、決して北京冬季五輪の外交的ボイコットをしないということだ。

念を押すように、ロシアのプーチン大統領が12月6日インドを訪問しモディ首相と対面で会談した。このコロナの中でわざわざインドまで行くというのは、よほどインドを重んじているためと解釈される。

これまで何度も書いてきたが、プーチンとモディは個人的に非常に仲良しだ。   

プーチンと習近平の親密さも尋常ではない。

8月15日のコラム<タリバンが米中の力関係を逆転させる>や9月6日のコラム<タリバン勝利の裏に習近平のシナリオ ―― 分岐点は2016年>などでも書いたように、習近平は肝心な分岐点になると、必ずと言っていいほどプーチンに前面に出てもらって中国に有利な方向に国際社会を持って行くべく動いてもらう傾向にある。

今般もまたプーチンに前面に出てもらってインドを中国側に引き付けるべく水面下で動いていると解釈される。

このたびのプーチン訪印では、露印間で99条に及ぶコミュニケが出されたが、それらは軍事やエネルギー面などでの連携を強化する内容になっている。特に軍事領域における両国間の強化は、アメリカに対して非常に不愉快なものだろう。

プーチンにしてみればウクライナがNATO側に付くことだけは許さないという強烈な気持ちがあるので、その意味でも中印との連携を強化したい。

クワッド(日米豪印)からインドが実質上抜け、日本がマグニツキー法や外交的ボイコットにおいてアメリカに同調しないとすれば、中国から見れば、クワッドは骨抜きになったに等しいのである。

岸田政権には中国が世界中で最も親中的だと位置付けている公明党が与党として入っており、中国が最もコントロールしやすいとみなしている日中議連の会長を務めていた自民党きっての親中派である林芳正氏が外相を務めているので、岸田政権は親中満載だと見ているだろう。

特に12月3日のコラム<習近平、「台湾統一」は2035年まで待つ>で述べたように、習近平はあくまでも経済で各国・地域を中国側に引き寄せておけば安泰という外交戦略で動いている。

もともと親中親韓的傾向の強いハト派である宏池会出身の岸田文雄氏が首相を務める岸田政権は経済連携において中国から離れることはない。

習近平にとって、こんなにありがたい政権はないのである。

日本はこのことに目を向けなければならない。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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