最新記事

モンテネグロ

中国の魔の手から「欧州の中心」を救え

U.S., EU Risk Losing 'Heart of Europe' to China, Montenegro Warns

2021年11月15日(月)19時00分
デービッド・ブレナン

セルビアのラディナッチ村。かつて真っ白だった女性の家の壁は、中国所有の製鉄所が吐き出す粉塵で真っ赤に(11月3日) Marko Djurica-REUTERS

<心はEUだが加盟は認められず、大型投資をしてくれるのは中国だけ──モンテネグロ外相が語る西バルカン諸国の危機と欧米が取るべき道>

モンテネグロのジョルジェ・ラドゥロビッチ外相は本誌のインタビューに答え、西バルカン地域への中国の影響力拡大にアメリカとEUが対抗する方法は、大規模で規持続的な投資以外にないと述べた。西バルカンとは、バルカン半島の西側に位置するEU未加盟の6カ国(ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、北マケドニア、コソボ、アルバニア)を指す。

Goolemap1115.jpegGoole Map より作成


ラドゥロビッチによれば、「欧州の中心部」である西バルカンの国々もその指導者たちも西側寄りだ。そして喫緊の課題であるインフラ整備や経済成長を支え、ロシアや中国から国を守るため、アメリカやEUのさらなる資金援助を求めているという。

「西側からのさらなる投資を期待している」とラドゥロビッチは述べた。「西バルカンは欧州の中心だ。EUではないが欧州だ。そしてモンテネグロは西バルカンの中心にある。アメリカやEUはこの地域でもっと存在感を示すべきだ」

「(モンテネグロは)政治的には西側だ。NATO加盟国で、EUへの加盟交渉が最も進んでいる国である。また、EUとは多くの共通項がある」

西バルカンの国々はいずれもEUへの加盟を望んでいるが、そこに至るプロセスは長い。また、国内の政治的な混乱(ボスニア・ヘルツェゴビナの民族対立がいい例だ)がさらに加盟を遅らせる可能性もある。

欧米の「無関心」が中国につけ込まれる原因に

モンテネグロは西バルカン諸国の中でも、EUへの正式加盟に一番近い位置にいる。2017年にはNATOに加盟しており、ラドゥロビッチによれば、EU加盟にこそ国の未来があるというのが政府の考えだ。

だがEUはこれまで、西バルカンのことをおざなりにしていると批判されてきた。加盟に向けた審査に交渉、移民問題をめぐる加盟国からの反対など、加盟までの道のりの険しさに苦い思いを抱く人もいる。

欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は9月に西バルカンを訪問した。加盟プロセスへの西バルカン諸国の懸念を緩和するのが目的だった。

フォンデアライエンはボスニアとクロアチアを結ぶ橋の開通式に出席、こう述べた。「ボスニア・ヘルツェゴビナなど全ての西バルカンの国々はEUに属する。それはわれわれ共通の利害であるだけでなく、運命でもあると私は考えている」

だが加盟交渉の遅れは、他の勢力の西バルカンへの侵入を許した。

「われわれの主要な外交政策パートナーであるEUとNATOとアメリカが、西バルカンのことを顧みなかった時期があった」とラドゥロビッチは言う。「そのせいでここ西バルカンに地政学的空白が生まれた。そこに中国が飛び込んできたわけだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英賃金上昇率、1─3月は前年比6.0% 予想上回る

ワールド

プーチン大統領、16-17日に訪中 習主席と会談へ

ワールド

英当局、国家安保法違反で3人逮捕 香港長官「でっち

ワールド

焦点:ロシア新国防相は「ソビエト的」、プーチン氏盟
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中