最新記事

追悼

歴史に残る過ちを犯したラムズフェルド...超エリートは何を見誤ったのか

Quagmire Man Dead at 88

2021年7月6日(火)17時46分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌上級特派員)
ドナルド・ラムズフェルド元米国防長官

ラムズフェルドはアメリカの強さを過信した JOSHUA ROBERTSーREUTERS

<国防長官を2度務めたタカ派は、自分を過信するあまりアメリカを2つの泥沼に導くという負のレガシーを遺してしまった>

6月29日に88歳で死去したドナルド・ラムズフェルド元米国防長官は、ジャーナリストのデービッド・ハルバースタムが「ベスト・アンド・ブライテスト(最良にして最も聡明な者たち)」と呼んだエリートそのものだった。頭脳明晰で威厳に満ちていたが、最後には自らを過信するあまり自滅した。

超タカ派のラムズフェルドは、かつて「私は泥沼になどはまらない」と豪語した。だが彼の最大のレガシーは、イラクとアフガニスタンでの戦争を推し進め、泥沼化させたことだろう。

プリンストン大学卒の元海軍パイロットであるラムズフェルドは、ワシントンで出世の階段を駆け上がった。1975年には史上最年少の43歳で、フォード政権の国防長官に就任。2001年にはジョージ・W・ブッシュ大統領の下で、今度は史上最高齢の国防長官となった。

彼は筋金入りの保守派だった。冷戦期にはヘンリー・キッシンジャーが掲げたソ連との緊張緩和政策に強く反発し、軍備を増強すべきだと主張。ブッシュ政権の国防長官時代には、盟友のディック・チェイニー副大統領と共に、9.11同時多発テロ後にアフガニスタンだけでなくイラクにも報復攻撃するべきだと強く進言した。

ラムズフェルドはアメリカの強大な力を誇示することに喜びを感じていた。その彼が06年に事実上の更迭に追い込まれることになった一連の判断を通じ、アメリカの力の最大の弱点をさらけ出したのは、皮肉な話だ。

「ベトナムの二の舞」との警告を無視

彼は少数部隊の小規模な展開で大きな成果を達成したいと考えていた。アフガニスタン侵攻の初期には、それに成功。01年後半にはB52戦略爆撃機からレーザー誘導式の統合直接攻撃弾を投下することにより、武装勢力タリバンを2カ月足らずで一掃した。

しかし、その後の「対テロ戦争」では失策が続いた。

01年12月、アフガニスタン東部の山岳地帯で作戦を指揮していたCIAのゲーリー・バーントセンは、9.11テロの首謀者ウサマ・ビンラディンを追い詰めたと確信し、追加派兵を要請。ラムズフェルドはこれを却下し、ビンラディンの拘束はパキスタン軍に任せるべきだと主張した(パキスタン軍はビンラディンの逃亡を助けた可能性が高い)。

02年秋には、ジェームズ・ロシェ空軍長官がイラク侵攻計画について考え直すよう提言したものの、耳を貸さなかった。ロシェはラムズフェルドに「イラクはベトナムの二の舞いになりかねない」と警告したが、ラムズフェルドは「そんなはずがあるものか」と激怒した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正(17日配信記事)-日本株、なお魅力的な投資対

ワールド

G7外相会議、ウクライナ問題協議へ ボレル氏「EU

ワールド

名門ケネディ家の多数がバイデン氏支持表明へ、無所属

ビジネス

中国人民銀には追加策の余地、弱い信用需要に対処必要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 6

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 7

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 8

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中