最新記事

欧州

EU議長国にスロベニア 対立する右派首相で「東西分断」加速の恐れも

2021年7月2日(金)10時37分
スロベニア首相ヤネス・ヤンシャ

欧州連合(EU)の議長国が7月1日、ポルトガルからスロベニアに交代する。民主主義の基本的諸価値を巡って東欧と西欧の加盟国間に緊張が走っている中で、よりによってスロベニア首相の地位にあるのが民主主義について欧州委員会と舌戦を繰り広げてきた右派ナショナリストのヤネス・ヤンシャ氏(写真)という回り合わせになった。6月25日、ブリュッセルで代表撮影(2021年 ロイター/Olivier Matthys)

欧州連合(EU)の議長国が7月1日、ポルトガルからスロベニアに交代する。民主主義の基本的諸価値を巡って東欧と西欧の加盟国間に緊張が走っている中で、よりによってスロベニア首相の地位にあるのが民主主義について欧州委員会と舌戦を繰り広げてきた右派ナショナリストのヤネス・ヤンシャ氏という回り合わせになった。

62歳のヤンシャ氏はトランプ前米大統領を尊敬しており、トランプ氏のようなツイッターにおける歯に衣着せぬ発言を通じ、報道の自由の問題などでEUと衝突してきた。ヤンシャ氏はハンガリーのオルバン首相とも親しい。そのオルバン氏は6月24日のEU首脳会議で、ハンガリーが制定した法律に対する批判が相次いだことから、西欧諸国との不協和音が最高潮に達した。この法律は、学校で性的少数者(LGBT)の受け入れを促進するとみなされる教材の使用を禁じる内容だ。

こうした面から、スロベニアのEU議長就任はEU内で共通の価値を巡る亀裂が広がりつつある現状を照らし出すことになるかもしれない。実際西欧諸国は、強権的な東欧指導者が連帯を強化している構図を懸念しながら見守っている。

先週の首脳会議でもヤンシャ氏とポーランドの首相だけがハンガリーの反LGBT法を支持し、フランスのマクロン大統領は根本的な「東西の分断」と率直に表現。「これは単にオルバン氏の問題ではなく、もっと根が深い」と語った。

一方ヤンシャ氏は首脳会議での反LGBT法の議論について記者団に、「時には非常に白熱した真剣な意見交換」だったが、さまざまな事実が明確になると冷静な雰囲気に戻ったと説明した。

その上でヤンシャ氏は、この問題が欧州にとって不要な新しい分断をもたらすと思っていないと強調するとともに「スロベニアや他の多くの国は欧州で新たな分裂を策する勢力に属したくはない。分裂はもう十分に味わった。われわれがEUに加わったのは、分裂ではなく統合するためだ」と述べた。

東欧同盟

ただ研究者の間からは、法の支配や人権、報道の自由、LGBTの権利といったEUの基本的諸価値に反する立場に基づいた「東欧同盟」が出現してきたとの見方が出ている。

リュブリャナ大学のマルコ・ミロサブリェビッチ教授(ジャーナリズム・メディア政策)は「この同盟全体としての態度は非常に反EU的だと思う。新しい鉄のカーテンのようなものが築かれた兆しを示している」と指摘した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中