最新記事

新型コロナウイルス

在留邦人290人が感染、未確認含め21人死亡か デルタ株急拡大のインドネシア

2021年7月8日(木)19時45分
大塚智彦

こうした集団感染はなにも日系企業やオフィスだけではなく、インドネシア企業の工場、オフィスでも多発していると伝えられているが、地元メディアはその詳細を伝えることには積極的ではないといわれている。

それはインドネシア政府の意向もあり、現地メディアはワクチン接種に報道の重点をおいているため、とされている。ジョコ・ウィドド大統領の動静に関する報道も、各地のワクチン接種の会場を視察するニュースが連日続いている状況だ。

より厳しい行動制限、インドネシア政府

こうした6月から7月にかけてのコロナ感染の急拡大に対してジョコ・ウィドド大統領やジャカルタ州政府のアニス・バスウェダン州知事などはこれまでに実施していた「大規模社会制限(PSBB)」などをさらに強化した「緊急大衆化活動制限令(PPKM Darurat)」を7月3日から20日までの期限でジャカルタ首都圏を含むジャワ島全域と世界的な観光地バリ島のあるバリ州に適用した。

主な内容はショッピングモールや飲食店の原則営業停止(飲食店はテイクアウトのみ可能)、医療、医薬、生活インフラなど基幹産業を除く一般企業、オフィス、工場の100%在宅勤務実施、ジャカルタ中心部への車両・バイクの流入制限、宗教施設の閉鎖、学校のオンライン授業実施などとなっている。

さらにインドネシア国内を空路、航路、鉄路などで移動する際は外国人を含めて、PCR検査などによるコロナ陰性証明と同時にワクチンの2回接種を証明する書類の所持、提示義務も科されるようになった。

ロックダウンには消極的な政府

こうしたこれまで以上に厳しいコロナ感染防止対策を打ち出したジョコ・ウィドド政権だが、「ロックダウン(都市封鎖)」の実施には消極的だ。これまでも医療関係者や野党などから「強力な制限でコロナ封じ込め」の必要性が叫ばれてきたが、政府や州政府は「経済活動への影響を考慮」を理由にして踏み切ることはなかった。このため感染急拡大は後手後手の消極策による「人災」との批判も出始めている。

ASEANをみてみると、ベトナムのホーチミン市は7月9日から市全域をロックダウンすることを決め、マレーシアは6月1日から全土でロックダウンを実施、7月に入ってペナン州など一部地域で緩和されている。

またインドネシアの隣国のシンガポールではこれまで厳しい感染対策をとっており、その効果が出ているとして7月12日から活動制限を緩和して、飲食店などで同一グループが店内で飲食できる人数を最大5人に緩和する。これはワクチン接種が順調に進み、既に人口の3分の2が1回目の接種を終えたことを受けての決定だ。

こうしたASEAN各国の中にあってインドネシアは急激な感染拡大と政府による断固とした規制に踏み切れない状況にあり、在留日本人を含めた多くの市民、国民がコロナ感染の恐怖に直面している。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中