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七五三にしか見えない日本の成人式を嘆く

2021年1月16日(土)09時00分
にしゃんた(羽衣国際大学教授、タレント)

ずいぶん前のことではあるが、ここでボヤいている私もかつて、日本で成人の日を祝ってもらった。その年のお年玉全額をはたいて購入したスーツを着て地元の成人式に参加した。式典では数名の来賓の祝辞を拝聴し、最後に漫才を楽んだ記憶が残っている。

当時はフィルムの時代で、成人式で記念写真を撮るもネガを入れ忘れ、記録のない記憶のみの成人式となってしまった苦い思い出にはなったが、祝っていただいてありがたいという気持ちは変わらない。日本独自の成人式をこれからももちろん、なんなら日本のこの素晴らしい文化が世界にも広がればと願う。

ただ日本の成人式はこれで良いのかという疑問がないわけではない。日本に住んで長くなるとあちこちに対して言えることでもあるが、つまり「素晴らしいが、詰めが甘いのではないか」あるいは「惜しい」ということである。その点、全体のごく一部であることは重々承知しているがメディアなどを介して伝わってくる、元気過ぎて成人式内外で暴れまわる新成人の姿がなければ疑問を持つこともなかったと考えれば、暴れる君達に感謝の念も浮かぶ。

素晴らしい福井の「立志式」

改めて日本の成人式の開催趣旨を読んでみたが、そこには「成人した者の激励と祝福」と記されている。この大人の善意は素晴らしい。戦後、意気消沈していた青年を励ますという趣旨で始められたものが起源であることを考えれば、その流れを受け継いだものであることは分かる。しかし、現代における成人式の開催趣旨は「成人した者が感謝し誓う」を主体にしてもいいのではないだろうか。式次第の多くは、先輩が「激励と祝福」をし、新成人から「感謝と誓い」をするようだが、やはり後者の印象が薄い現状が惜しい。

「感謝と誓い」について考えるとどうしても頭をよぎるのは福井県である。福井では15歳になる生徒らで行なう「立志式」が素晴らしい。これは同じ15歳で誓いを立てた福井藩士の橋本左内に由来する。左内は「啓発録」に5つの心構えーー1.去稚心(稚心を去れ)、2.振気 (気を振るえ)、3.立志 (志を立てよ)、4.勉学 (学に勉めよ)、5.択交 (交友を択ぶ)――を記している。今でも毎年開かれる立志式では、子供たちは啓発録を声に出して発表し、併せて各々が自らの誓いを立てる。繰り返しになるがこれは素晴らしい。

日本で生まれ、親に連れられ初宮参り、七五三を親に祝ってもらう過程を経て、立志式で立派に誓いを立てるところまで成長した子供たちの姿は眩い。その子供が成人の時点でさらに成長した姿を見たいのは親心なのかもしれない。ただ「立志式」と「成人式」の双方を目の当たりにした者としての感想を一言言えば、成人式で見る日本の若者は、むしろ七五三に近い。親に着物や身の回りの物を準備してもらい、イベントに参加する。どうも幼児化し、子ども返りをしているとしか見えない。それは成人式の趣旨に大きな原因があるような気がしてならない。

節目節目を祝う日本の素晴らしい文化、とりわけ成人式が世界に広まる頃までには、そこに、「感謝と誓い(志)」という日本らしい概念もぜひ加わっていることを願ってやまない。

【筆者:にしゃんた】
セイロン(現スリランカ)生まれ。高校生の時に初めて日本を訪れ、その後に再来日して立命館大学を卒業。日本国籍を取得。現在は大学で教壇に立ち、テレビ・ラジオへの出演、執筆などのほか各地でダイバーシティ スピーカー(多様性の語り部)としても活躍している。

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