最新記事

オリンピック招致

東京五輪に買収疑惑の暗雲が再び──フィンセン文書で「送金」の詳細が明らかに

Tokyo Olympics Suspicions Redux

2020年10月7日(水)19時00分
北島 純(社会情報大学院大学特任教授)

高潔なはずのスポーツの祭典がカネまみれに?  ISSEI KATO-REUTERS

<招致委の不透明なカネの流れを海外メディアが報道、再浮上した疑惑への説明責任が問われている>

新型コロナウイルスの影響で来年7月に開催が延期された東京五輪だが、その招致に関わる買収疑惑に関して最近、大きな動きが2つあった。

1つは国際陸連(現世界陸連)元会長のラミン・ディアクとその息子パパマッサタ・ディアクが、ロシア陸上界におけるドーピング隠蔽の対価として「賄賂」をもらっていたとする有罪判決が9月16日にパリで言い渡されたこと。もう1つは米財務省金融犯罪取締ネットワーク局(FinCEN)からリークされた記録(フィンセン文書)に基づく報道が9月21日、世界で一斉に始まり、その中で東京五輪招致に絡んでパパマッサタに渡った「送金」の詳細が明らかになったことだ。

ラミンは1999~2015年に国際陸連の会長を務め、セネガル出身のIOC(国際オリンピック委員会)委員としてスポーツ界に大きな影響力を有していた人物だ。息子パパマッサタと共に、ロシア陸上界で組織的に行われていたドーピングを隠蔽する見返りに345万ユーロ(約4億2600万円)を要求・収受したとして、収賄やマネーロンダリングの罪に問われ起訴されていた。

ロシア陸上界でのドーピング疑惑は、選手が内部告発を行い、それに基づいてドイツ公共放送ARDが2014年12月にドキュメンタリー番組を放映して明らかになった。国際陸連の本部はモナコにあるが、収賄などの犯罪行為がパリを舞台にして行われたことからフランスの予審判事と国家財政金融検察局が捜査を担当。単なるドーピングとその隠蔽というだけでなく、隠蔽の見返りに金銭の授受があったとして贈収賄事件化した。

国際陸連のような競技団体の幹部は公務員ではない。しかしフランス刑法は私人であっても契約や職業上の義務に反して賄賂を要求・収受した場合は、収賄として処罰すると規定している。今回の判決でラミンは禁錮4年(うち執行猶予2年)、罰金50万ユーロ(約6200万円)、セネガルに滞在する息子パパマッサタも禁錮5年、罰金100万ユーロ(約1億2400万円)という厳罰を言い渡された。

新資料が暴く資金の動き

ロシアのドーピング問題とディアク親子の収賄事件は、一見すると東京五輪招致と何も関係がないように思える。南米ブエノスアイレスでのIOC総会で2020年五輪の開催地の決定投票が行われ、東京での開催が決まったのは2013年9月。この時点でロシアのドーピング疑惑は表沙汰にはなっていなかった。

しかし、ARDの番組放映を受けて、世界反ドーピング機関(WADA)が調査を開始。2016年1月に公表した報告書に「トルコは400万~500万ドルの協賛金を国際陸連もしくは(国際陸上競技大会の)ダイヤモンドリーグに支払わなかったため、ディアク前会⻑のサポートを失った。記録によると、日本人はその金額を支払った。2020年大会は東京が獲得した」という注釈が記載され、これが契機となって東京五輪招致におけるディアク親子の暗躍が露呈した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏が不倫口止め料支払いを個人的に指示、元顧

ビジネス

ミーム株急騰、火付け役が3年ぶり投稿再開 ゲームス

ビジネス

米国株式市場=S&P横ばい、インフレ指標や企業決算

ワールド

メリンダ・ゲイツ氏、慈善団体共同議長退任へ 名称「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 8

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 9

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中