最新記事

誤解だらけの米中新冷戦

中国とのライバル関係を深刻に扱うべきでない理由

STAY CALM ABOUT CHINA

2020年9月16日(水)19時00分
アナトール・リーベン(ロンドン大学キングズ・カレッジ教授〔政治学〕)

magSR200916_China3.jpg

ジョセフ・マッカーシー上院議員が進めた「赤狩り」はついに米陸軍にも及んだ(1954年) BETTMANN/GETTY IMAGES

つまりアメリカの外交や安全保障を動かす人々は現在の中国とのライバル関係を「特定の分野の限定的な競争」という概念で捉えるべきであり、「アメリカの存続に関わるような世界規模の善と悪の戦い」と考えるべきではない。何より、中国との闘争をアメリカの政策の中心に据えることは、国民の安寧を脅かすはるかに深刻な問題(国内においては経済格差と人種間の緊張、世界規模で言えば気候変動とその影響)から目をそらすことになる。

このたびのコロナ禍は、一般国民の真の利益とは何かをアメリカがきちんと理解するきっかけになるはずだ。朝鮮戦争とベトナム戦争におけるアメリカ人戦死者を合わせた数より多くの人に死をもたらしたのは敵対する大国ではなく、新型コロナウイルスだったのだから。

アメリカと中国の競争は現実にあるし、深刻でもあるし、これからも拡大していくだろう。それは経済的な理由からも、世界のリーダーという立場を今後も維持するというアメリカの考えと中国の野心が相容れないことからも避けられない。

だがこの競争関係は、2つの根本的に相反する国家制度の間の存続に関わる闘争ではないし、地球のあらゆる場所で戦われるべきグローバルな闘争でもない。

中国は共産主義革命を世界中で推し進めようとはしていないし、中国が既存の国家の転覆を狙っている証拠もどこにもない。中国は資本主義的な貿易大国であり、各国市場の安定や、自国からの対外投資の安全は非常に重要だ。

西側世界の世論や政治、外交に影響を与えようと中国がさまざまな形の工作を行っているのは事実だし、これには対抗措置を取るべきだ。だが中国の工作の目的はあくまでも、西側諸国の対中政策に影響を与えることで国家転覆ではない。

また中国(およびロシア)がアメリカ政治を動かそうとこっそり行っている宣伝工作の効果は、アメリカ自身の国内問題がもたらす影響と比べればはるかに小さい。BLM(黒人の命も大切だ)運動のきっかけとなったジョージ・フロイド殺害事件を起こしたのは中国ではない。

中国と同じ方法で競争せよ

中国は、資本主義的な貿易国家であり、国際的な資本主義システムに依存している。従って、一定のルールに基づく国際秩序の安定を必要としている。

同時に中国は、この国際的な資本主義システムを通じて、自らの影響力拡大を図ってきた。世界各国で進む次世代通信規格5Gの整備事業に、華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)が食い込もうとしているのがいい例だ。中国のこうした活動は厳しく制限しなければならない。それでも中国はまだ、アメリカほどの経済的影響力は持っていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中