最新記事

亡命

母国送還かコロナ感染か 米収容所の亡命希望者が突きつけられる残酷な選択

2020年7月14日(火)11時25分

本国送還に誘導か

正体不明の武装集団に誘拐された後、米国に逃れてきたというメキシコからの亡命申請者パトリシア・ヒメネスさんは、アリゾナ州のイーロイ連邦契約施設で新型コロナがまん延するなか、申請を取り下げ、本国送還を求めることにした。同施設では222人の感染が報告されており、ICEの収容センターにおける感染拡大としては2番めに多くなっている。ヒメネスさんの証言は、彼女を担当する弁護士と伯母によっても裏付けられている。

ヒメネスさんは6月末、本国送還を待つ収容センターからの電話で、「感染して、息子に会えなくなるのではないかと本当に怖くなる」とロイターに語った。

ヒメネスさんは、メキシコに戻るのも怖いと言う。

「でも、現時点ではここにいる方が怖い」とし、施設のキッチンで作業していたときに接触のあった警備員が亡くなったことを挙げる。センターの管理事業者であるコアシビックによれば、警備員の死亡は「新型コロナウイルス感染症に関連した問題によるものだった可能性」があるという。

コアシビックの代表者は発表文で、収容者と職員の安全確保に注力していると述べ、ヒメネスさんの主張には「新型コロナウイルス感染症拡大を防ぐために当社施設が数カ月にわたって取り組んできた積極的かつ前向きな措置が反映されていない」としている。

新型コロナによる合併症のリスクが大きい糖尿病を持病として抱えるメキシコからの亡命申請者ルーカス・カストロさんも、母国に戻るよりも収容施設にいる方が危ないと不安になり、本国送還を希望したという。母国では昨年、麻薬犯罪組織にひどい暴行を受けたという。カストロさんの証言は、彼の妻の言葉や、ロイターが閲覧した亡命申請プロセスの一部である「信じるに値する恐怖」面接の書き起こしによっても裏付けられた。

カストロさんを含む8人の移民はロイターに対し、当局者は収容者の健康上の不安に乗じて本国送還に同意させようとしていた、と語った。

カストロさんによれば、彼が収容されていたアリゾナ州のラ・パルマ矯正施設では、収容者らが頻繁にパンデミックに関する情報や、人道的理由やその他の形による釈放が認められるか否かを知りたがっていたという。

「それなのに、本国送還担当の当局者がやってきて、本当に(感染が)怖いのであれば、単に本国送還への同意書に署名すべきだ、と言ってきた」とカストロさんは言う。同じ施設にいた元収容者2人も、カストロさんの証言に同意した。カストロさんによれば、彼はウイルス感染への恐怖により判事に本国送還を求め、米国側の記録によれば5月末に送還命令が出されている。

ICEの別の広報担当者は、ICEでは、新型コロナウイルス感染症に関連する健康上の不安を口にする収容者に対し本国送還への同意を促す方針はとっていないと話す。この広報担当者によれば、ラ・パルマ矯正施設には、カストロさんが主張する職員の発言について、彼が苦情を申し立てた記録はないという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、零細事業者への関税適用免除を否定 大

ビジネス

加藤財務相、為替はベセント米財務長官との間で協議 

ワールド

トランプ米大統領、2日に26年度予算公表=ホワイト

ビジネス

米シティ、ライトハイザー元通商代表をシニアアドバイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中