最新記事

Black Lives Matter

ブラック・パンサーの敗北がBLM運動に突き付ける教訓

THE LONG HISTORY BEHIND BLM

2020年7月8日(水)06時35分
マルコム・ビース(ジャーナリスト)

FBIはブラック・パンサー(写真は1968年にニューヨークで行ったデモ)に憎悪を燃やし、執拗に弾圧した BETTMANN/GETTY IMAGES

<警察とFBIは徹底的に黒人解放運動の組織を憎悪し壊滅させた。71歳の元ブラック・パンサー構成員が危惧する今のBLM運動の問題とは? 本誌「Black Lives Matter」特集より>

5月末からアメリカで勢いづいているBLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動は、世界中の人々の心をわしづかみにしている。
20200707issue_cover200.jpg
ニュースサイトwburによると、5月25日以降、BLM運動に関連した抗議活動は全世界で3960件を超える。アメリカだけでなくベルギーやイギリスでも、植民地支配を象徴する歴史上の人物の像が、群衆によって倒されている。

さらに人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルによると、5月25日~6月5日にアメリカの首都と40州で、抗議活動と警察の衝突が125件発生。平和的なデモやジャーナリストにも、傍観者にも、警察は実力行使を辞さない。

BLM運動は、2012年2月にフロリダ州で17歳の黒人高校生トレイボン・マーティンが自警団の男性に射殺された事件を機に始まり、瞬く間に世界的な運動に発展した。現在、世界中に40の支部がある。

今年5月25日にミネソタ州ミネアポリスで46歳の黒人男性ジョージ・フロイドが、警察官に膝で首を押さえ付けられ、その後に死亡。この事件を引き金に、現在も激しい抗議活動が続いている。しかし、BLM運動のルーツは、アメリカの歴史と精神のもっと深いところにある。

今から100年ほど前、黒人民族主義の指導者マーカス・ガーベイが世界黒人開発協会アフリカ会連合を設立した。ガーベイは1923年6月に郵便詐欺で有罪判決を受け、懲役5年を言い渡された。FBI初代長官のJ・エドガー・フーバーが後に黒人過激派グループと見なす勢力との数十年に及ぶ戦いで、第1ラウンドはFBIの勝利だった。

50年代と60年代にはマーチン・ルーサー・キングとマルコムXが、アメリカの人種問題の景観を永遠に変えた功績で、歴史に名を残すことになった。しかし、BLMをめぐる現代の問題を理解するためには、ブラック・パンサーと警察権力の関係のほうが重要だろう。

1966年にカリフォルニア州オークランドで結成されたブラック・パンサーはアフリカ系アメリカ人社会主義者の政治組織で、自衛のために武装する権利を主張した。

1956 年にフーバーは、FBIにコインテルプロと呼ばれる極秘の(違法行為もいとわない)監視プロジェクトを導入した。その目的は「黒人民族主義者、ヘイトグループ、それらの指導者や広報官、メンバー、支持者の活動を混乱させ、世論の誤解を誘導し、信用を失墜させ、あるいは無力化させる」ことで、「さまざまなグループが統合したり、新たな若い信奉者を勧誘したりする努力を挫折させる」ことだった。

FBIの標的には「白人のヘイトグループ」や「社会主義労働者党」、そしてキューバも含まれていたが、黒人民族主義の組織と運動が最優先であることは明らかだった。

【関連記事】Black Lives Matter、日本人が知らないデモ拡大の4つの要因

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米経済活動、ほぼ変化なし 雇用減速・物価は緩やかに

ワールド

米移民当局、レビット報道官の親戚女性を拘束 不法滞

ビジネス

米ホワイトハウス近辺で銃撃、州兵2人重体か トラン

ビジネス

NY外為市場=円下落、日銀利上げ観測受けた買い細る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 7
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中