ブラック・パンサーの敗北がBLM運動に突き付ける教訓
THE LONG HISTORY BEHIND BLM
FBIはブラック・パンサー(写真は1968年にニューヨークで行ったデモ)に憎悪を燃やし、執拗に弾圧した BETTMANN/GETTY IMAGES
<警察とFBIは徹底的に黒人解放運動の組織を憎悪し壊滅させた。71歳の元ブラック・パンサー構成員が危惧する今のBLM運動の問題とは? 本誌「Black Lives Matter」特集より>
5月末からアメリカで勢いづいているBLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動は、世界中の人々の心をわしづかみにしている。
ニュースサイトwburによると、5月25日以降、BLM運動に関連した抗議活動は全世界で3960件を超える。アメリカだけでなくベルギーやイギリスでも、植民地支配を象徴する歴史上の人物の像が、群衆によって倒されている。
さらに人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルによると、5月25日~6月5日にアメリカの首都と40州で、抗議活動と警察の衝突が125件発生。平和的なデモやジャーナリストにも、傍観者にも、警察は実力行使を辞さない。
BLM運動は、2012年2月にフロリダ州で17歳の黒人高校生トレイボン・マーティンが自警団の男性に射殺された事件を機に始まり、瞬く間に世界的な運動に発展した。現在、世界中に40の支部がある。
今年5月25日にミネソタ州ミネアポリスで46歳の黒人男性ジョージ・フロイドが、警察官に膝で首を押さえ付けられ、その後に死亡。この事件を引き金に、現在も激しい抗議活動が続いている。しかし、BLM運動のルーツは、アメリカの歴史と精神のもっと深いところにある。
今から100年ほど前、黒人民族主義の指導者マーカス・ガーベイが世界黒人開発協会アフリカ会連合を設立した。ガーベイは1923年6月に郵便詐欺で有罪判決を受け、懲役5年を言い渡された。FBI初代長官のJ・エドガー・フーバーが後に黒人過激派グループと見なす勢力との数十年に及ぶ戦いで、第1ラウンドはFBIの勝利だった。
50年代と60年代にはマーチン・ルーサー・キングとマルコムXが、アメリカの人種問題の景観を永遠に変えた功績で、歴史に名を残すことになった。しかし、BLMをめぐる現代の問題を理解するためには、ブラック・パンサーと警察権力の関係のほうが重要だろう。
1966年にカリフォルニア州オークランドで結成されたブラック・パンサーはアフリカ系アメリカ人社会主義者の政治組織で、自衛のために武装する権利を主張した。
1956 年にフーバーは、FBIにコインテルプロと呼ばれる極秘の(違法行為もいとわない)監視プロジェクトを導入した。その目的は「黒人民族主義者、ヘイトグループ、それらの指導者や広報官、メンバー、支持者の活動を混乱させ、世論の誤解を誘導し、信用を失墜させ、あるいは無力化させる」ことで、「さまざまなグループが統合したり、新たな若い信奉者を勧誘したりする努力を挫折させる」ことだった。
FBIの標的には「白人のヘイトグループ」や「社会主義労働者党」、そしてキューバも含まれていたが、黒人民族主義の組織と運動が最優先であることは明らかだった。