最新記事

軍事

インド「衛星撃墜成功」4カ国目、宇宙大国へ

India Shoots Down Satellite for First Time

2019年3月28日(木)15時51分
カラム・パトン

衛星撃墜成功を誇るモディ首相のテレビ演説を見守るコルカタの商店主(2019年3月27日) Rupak De Chowdhuri-REUTERS

<インドとパキスタンの軍事的緊張がエスカレートし、インド総選挙を控えたタイミングでの発表には下心が見え見え>

インドのナレンドラ・モディ首相は3月27日、国民向けにテレビ演説し、純国産ミサイルによる低軌道衛星の撃墜に成功したと発表。宇宙開発における「超大国入り」を表明した。

高額紙幣の廃止を宣言した2016年以来となる異例のテレビ演説は、インド全土のテレビ局で放送され、ソーシャルメディアにも流された。ミサイルを使った人工衛星の撃墜に成功したのは、アメリカ、ロシア、中国に次いで世界で4カ国目だ。

「いかなる国家にも、次世代に対する最大限の誇りと歴史的インパクトを持つ瞬間がある。今がその瞬間だ」

モディはこう続けた。「これはインドにとって偉大な瞬間だ。われわれ全員が誇るべきだ。今や陸海空だけでなく宇宙でも自衛できる。それを可能にし、インドをさらに強くしたすべての科学者を祝福しよう」

モディが「純国産」と呼ぶインドの衛星攻撃兵器(ASAT)は、上空300キロの軌道を周回していた小型の人工衛星を撃墜した。発射から3分しかかからなかった。

ミサイルによる衛生撃墜は、ロイター通信によれば、まだ人工衛星そのものが珍しかった1959年にアメリカが初めて成功した。

1985年に行った最後の撃墜実験では、地上からではなく上空の戦闘機F15からAGM-135ミサイルを発射し、衛星撃墜に成功した。その後冷戦が終わり、新たな実験は行われなくなったが、2007年に入ると中国がASATを使った撃墜実験を成功させた。

パキスタンと軍事的緊張

インドによる今回の実験は、隣国パキスタンとの間に生じた最近の軍事的緊張が伏線になっていると、安全保障の専門家は指摘する。発端は2月14日、パキスタンを拠点とするイスラム過激派組織が、両国が領有権を争うカシミール地方でインドの治安部隊にテロ攻撃を仕掛けたこと。その後、いずれも核保有国の両国間で危険な報復合戦が続いていた。

モディは演説で、実験は他国の衛星をターゲットにしたものではないと念を押すことも忘れなかった。

モディはまた、4~5月に総選挙を控えて愛国心に訴えたかったのではないか、という見方もある。野党サマジワディ党(社会党は、モディはミサイル実験を利用して、経済や高い失業率といった問題から国民の目をそらそうとしている、と非難した。

(翻訳:河原里香)

20190402cover-200.jpg

※4月2日号(3月26日発売)は「英国の悪夢」特集。EU離脱延期でも希望は見えず......。ハードブレグジット(合意なき離脱)がもたらす経済的損失は予測をはるかに超える。果たしてその規模は? そしてイギリス大迷走の本当の戦犯とは?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中