最新記事

人道危機

ロヒンギャ難民に迫るコレラと洪水の新たな脅威

2018年6月13日(水)17時30分
ソフィー・カズンズ

数十の国際援助機関をはじめ、ロヒンギャ難民の支援に携わる130余りの組織が共同でまとめた援助計画書は、現状の密集した生活環境で「感染症が流行すれば、何千人もの死者が出る恐れがある」と警告している。

筆者はクトゥパロン・バルカリ難民キャンプ内にある国境なき医師団の仮設クリニックを訪れ、コレラの流行を想定した準備と対策を見せてもらった。脱水症状を緩和する経口補水液がストックされ、救急治療センターには排便用の穴を空けたベッドが並ぶ隔離スペースが設けてあった。

「問題は国際社会の無関心」

猛暑のなか、難民は砂袋やプラスチック、竹などを集めて、テントが豪雨で流されないよう補強作業に余念がなかった。だが洪水になれば、粗末なテントなどひとたまりもない。「モンスーンが来れば、複合災害を覚悟しなければならない」と、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のキャロライン・グラック広報官は言う。「1日や1週間で終わる危機ではない。4、5カ月、もしかしたら半年も続く」

バングラデシュにはサイクロンに備えた早期警戒システムがあるが、難民の避難計画は立案されていない。高台への避難は論外だ。高台は少なく、人間が多過ぎる。かといって頑丈なシェルターの建設には行政当局が及び腰だ。

強固な恒久的施設を建設すれば、難民の定住を認めるサインと受け取られかねない。今年末に総選挙を控えるなか、シェイク・ハシナ・ワゼド首相率いる現政権がそんなリスクを冒すはずがない。ロヒンギャ難民への世論の反発が高まっている今はなおさらだ。

実際、ハシナ首相は「不満がくすぶり、職がなければ、人間は暴力的になるもの」だから、ロヒンギャ難民の滞在が長引けば治安悪化の懸念が高まると、国内メディアに語っている。

バングラデシュとミャンマーの両政府はロヒンギャ難民の帰還について昨年11月に合意に達し、今年1月に帰還を開始する予定だったが、大半の難民が帰還をためらっている(ミャンマー政府は5月末、帰還希望者58人が国境近くの受け入れセンターに到着したと発表したが、それ以前に帰還したのは1家族だけだ)。現在のミャンマーの状況では、「自主的で安全な、尊厳のある持続可能な帰還」は望めないとして、国連難民高等弁務官はミャンマー政府に改善を求めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ワールド

ウクライナ南部オデーサに無人機攻撃、2人死亡・15

ビジネス

見通し実現なら利上げ、不確実性高く2%実現の確度で

ワールド

米下院、カリフォルニア州の環境規制承認取り消し法案
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中