最新記事

アイルランド

アイルランドが国民投票で中絶合法化、同性婚に続く「静かな革命」が進行中

2018年5月28日(月)15時30分
ソフィア・ロット・パーシオ

医師に中絶を拒否されて死亡し、中絶合法化運動のシンボルとなったサビタ・ハラパナバルさんに花を捧げる市民(首都ダブリン、5月27日) Clodagh Kilcoyne-REUTERS

<世界で最も中絶に厳しい国のひとつだった保守的なアイルランド社会が、急速に変わろうとしている>

5月26日に行われたアイルランドの国民投票で、人工妊娠中絶を禁止する憲法修正第8条の撤廃が決まった。カトリック教徒が人口の8割を占め、世界でも最も中絶に厳しかったアイルランドのこの歴史的な国民投票には、数多くの在外有権者も帰国して参加した。

憲法修正第8条は、胎児の生きる権利と母親の生存権を同列に並べ、レイプ被害者の場合や母体に危険がある場合の多くも含め事実上中絶を禁止してきた。その是非は、2015年に同性婚を認め、やはり歴史的と言われた国民投票よりも世論の対立が激しい問題だった。

だが結果は誰も予想しないものだった。

26日午後に発表された開票結果では、中絶合法化に賛成が66.4%、反対が33.6%で、賛成は同性婚賛成の62.1%を上回った。投票率は有権者の64.13%にのぼり、これも同性婚に関する国民投票の投票率(60%)を上回った。

昨年、同国史上で初めて同性愛者であることを公にして首相になったレオ・バラッカー首相は、この結果を賞賛した。「私たちが目にしたのは、過去20年間にわたってアイルランドで起きている静かな革命の最高点だ」

思いやりのある進歩的な国へ

一部の在外有権者は、困難を乗り越えて投票に参加した。カナダに住むミシェル・スウィーニーは、迷いに迷ったあげく貯金を取り崩して、バンクーバーからダブリンに飛ぶ飛行機のチケットを予約した。

「仕事やその他の予定があるから、投票するために帰ることなどできないと思っていた」と、彼女は言う。「でも5月22日の朝、私は目を閉じて、銀行口座をカラにして、その日の午後の飛行機を予約した」

突然帰宅して、母親を驚かせるスウィーニーの動画は、ツィッターでの視聴回数が11万回を超えた。彼女は「賛成」に投票した。

「私はアイルランドを愛しているけれど、この国の過去と、女性への扱いを恥ずかしく思う」と、彼女は言う。「10月にビザが切れて帰国するころには、もっと思いやりのある、進歩的な国になっていてほしい」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中