最新記事

シリア内戦

化学兵器疑惑のシリア政権 欧米の報復受けても優勢持続の背景

2018年4月24日(火)16時06分

ロシア側との交渉の後、「ジャイシュ・アル・イスラム」はドゥーマ住民を代表する市民評議会と会談。戦闘により街の大半部分が瓦礫と化しているにもかかわらず、ドゥーマにはまだ数万人の住民が残っている。

反体制グループに対する住民のメッセージは明確だった。「これ以上、頑張らないでくれと、彼らは言った。撤退しなければ住民は政権側につくと」と同幹部は語る。「死を目の当たりにして、市民の士気は崩れてしまった」

匿名を条件にロイターの取材に応じた市民評議会のメンバーによれば、さらなる攻撃の脅威を考えると、これ以上アサド政権側に抵抗することはあり得ないと市民は話しているという。

化学兵器が使用されたとされる日の前日にも激しい空爆により数十人が死亡したが、同幹部は、状況には違いがあったという。「化学兵器は、さらに大きな恐怖を生んだ」

対立激化

長引くシリアの内戦は、ロシアがアサド政権側について以来、政権側が有利に事を進めている。

2016年末に東部の重要都市アレッポを占領した後、アサド政権側とその支持勢力は次々に地域を奪還していった。反体制勢力はロシア空軍による攻撃にさらされ、及び腰の姿勢にとどまる諸外国からは十分な支援を得られなかった。

シリア国内には、まだアサド政権側が掌握していない地域がかなり残されている。北部のほぼすべて、東部の大部分、そして南西部にも大きな地域が残されている。諸外国の利害が絡み、これらの地域での前進は難航しそうだ。

だが首都周辺では、アサド大統領は大きな成果を挙げた。東グータ地区は先月陥落し、反体制側の主要な拠点としてはドゥーマを残すだけの状態だった。ドゥーマが陥落したことで、反体制派の戦闘員がここ数日トルコ国境方面に移動したことは、また1つの大きな転機となった。

アサド政権を支持する地元武装勢力の指揮官によれば、東グータ地区に対する攻撃は、当初からロシアの指導の下、シリア政府の精鋭地上部隊によって実施されたという。

2月に攻撃が進行するなかで、包囲された東グータ地区は、地上からの砲撃と空爆を浴び、その後に地上部隊が突入した。シリア人権監視団によれば、東グータ地区攻撃では1700人以上の民間人が殺されたという。

互いの対立で足を引っ張られ、「焦土戦術」的な空爆で弱体化した東グータ地区のいくつかの反体制派グループは敗走を重ね、トルコ国境で反体制派の支配地域への安全な移動を受け入れざるを得なかった。

だが「ジャイシュ・アル・イスラム」は、シリア政権軍がドゥーマを包囲してもこれと同じ運命は避けられると信じ、この街を防衛し、アサド政権による強制退去から市民を守りたいと述べていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中