最新記事

スキャンダル

米体操界で20年以上放置されたセクハラの闇

2018年2月2日(金)16時00分
ケイティ・ウォルドマン(スレート誌記者)

ナサーはけがの治療と称して女子選手に性的虐待を繰り返していた Brendan Mcdermid-REUTERS

<スポーツ医師による性的虐待を150人以上の女子選手が告発。メディアと世間は、なぜ長期間この疑惑を無視してきたのか>

ラリー・ナサー (54)は約30年間にわたって米体操協会に所属し、チームドクターとして4回の五輪にも帯同したスポーツ医師。そのナサーが五輪の女子代表選手や勤務先のミシガン州立大学の選手らに対して長年、性的虐待を繰り返してきた実態が明らかになりつつある。

1月半ばにミシガン州の裁判所で始まった裁判では、7日間にわたって150人以上の被害者が次々と証言台に立ち、ナサーがけがの治療だと偽ってみだらな行為を行ってきた実態を力強い言葉で訴えた。

ある女性は、娘を被害から守れなかったことを悔いた父親が自殺したと明かした。夜ぐっすり眠ることができないという声や、常に不安に怯えているという訴えもあった。

ハリウッドでのセクハラ告発に端を発する「#MeToo」運動が世界を席巻するなか、彼女たちの言葉は新聞やネットニュースのトップを飾ると思われた。ところが実際にはメディアの反応は鈍く、ここにきてようやく怒りの声が上がり始めたところ。被害者の訴えに耳を傾けるのに、なぜこれほど長い時間がかかってしまったのだろうか。

ナサーの性的虐待疑惑が最初に表に出たのは16年8月のこと。米体操協会がセクハラの告発を握りつぶしているというインディアナポリス・スター紙の報道に勇気を得て、ミシガン州立大学の元体操選手レイチェル・デンホランダーがナサーの刑事告発に踏み切った。

犯行を許した組織の体質

これをきっかけに、他の被害者も徐々に声を上げ始めた。97年の時点でミシガン州立大学に被害を訴えたが、もみ消されたと語る人も複数いた。

ナサーの罪は極めて重い。裁判所は1月24日、禁錮40~175年の判決を言い渡した。

彼が標的としたのは、6歳の少女を含む若い女子選手だった。しかも彼女たちを守るべき立場にある米体操協会とミシガン州立大学、ミシガン州の体操クラブ「トゥイスターズ」は、ナサーの蛮行を容認してきた。にもかかわらずメディアはこのニュースを、ハリウッドの大物プロデューサー、ハービー・ワインスティーンをはじめとする他の多くのセクハラ疑惑のように大々的に報じてはこなかった。

#MeToo 運動はなぜ女子体操界のスキャンダルを見過ごしたのか。そしてなぜ今になって突然注目するようになったのか。

告発を最初に報じたのがニューヨーク・タイムズのような大手ではない地方紙だったことが、要因の1つかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB利下げ、年内3回の公算大 堅調な成長で=ギリ

ワールド

米・サウジ、安全保障協定で近く合意か イスラエル関

ワールド

フィリピン船や乗組員に被害及ぼす行動は「無責任」、

ワールド

米大学の反戦デモ、強制排除続く UCLAで200人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中