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シリア情勢

トルコがシリアへ侵攻し、クルドが切り捨てられる

2018年1月24日(水)18時00分
青山弘之(東京外国語大学教授)

バッファーから切り捨てられる存在へ

「オリーブの枝」作戦によって、シリア北西部の地図がどう塗り替えられるのかは、現時点では断言できない。トルコ政府および軍は、ロジャヴァを「テロリスト」とみなし、アフリーン市だけでなく、マンビジュ市、シリア北東部の国境地帯、さらにはイラク国境にいたる地域全体でロジャヴァを殲滅すると意気込んでいる。しかし、米国の後押しを受ける彼らを根絶することは、現実味を欠いている。

アフリーン市一帯のロジャヴァ支配地域がトルコの支援を受ける反体制派の手に陥ちることも、ロシアやアサド政権にとって好ましくない。なぜなら、それによってイドリブ県とアレッポ県北部の反体制派支配地域が物理的に繋がれば、アレッポ市が再び反体制派による攻撃の脅威に曝されるからだ。

にもかかわらず、ロジャヴァに対するトルコ軍の攻勢は、米国、ロシア、アサド政権にとって共通の利益でもある。米国は、トルコがアフリーン市攻略に専念する限り、ユーフラテス川左岸のロジャヴァ支配地域で足場固めを続けることができる。ロシアにとっては、1月29〜30日にソチで開催が予定されているシリア国民対話大会への参加に消極的な反体制派を説得するよう、トルコに強く求めることができる。アサド政権にとって、国際法に違反し、民間人に対しても容赦ない攻撃を加えるトルコ軍の非道は、イドリブ県、ダマスカス郊外県東グータ地方、そしてダルアー県の反体制派支配地域の奪還に向けた軍事作戦に伴うバッシングをかわすための格好の隠れ蓑になる。

対立し合う当事者たちを繋ぐバッファーとして、シリア内戦の終結やイスラーム国根絶に一役買ってきたクルド人だが、今やすべての当事者から切り捨てられる存在へと身を落とし、各々の利益を折り合わせる結節点となってしまっている。

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