最新記事

核・ミサイル開発

北朝鮮のミサイル実験が失敗した意味

2018年1月12日(金)15時10分
アンキット・パンダ(ディプロマット誌編集者)、デーブ・シュメラー(ミドルベリー国際大学院モントレー校ジェームズ・マーティン不拡散研究センター)

ミサイル発射実験が失敗した北倉飛行場と徳川市の位置 KCNA-REUTERS, Google Earth

<昨年4月の打ち上げ失敗で国内都市に被害が――発射施設は今や北朝鮮全土に拡散している>

北朝鮮の弾道ミサイル実験が失敗し、人口密集地域で爆発したらどうなるのか? 実は昨年、そんな事故が起きていた。

4月28日、平安南道にある北倉飛行場からIRBM(中距離弾道ミサイル)の火星12型が発射された。ミサイルは打ち上げ後すぐに作動不良となり、北東にある徳川市に落下。工業か農業用の複合施設に大きな被害をもたらした。

北朝鮮の武器計画に詳しい米政府筋によれば、ミサイルの第1ステージのエンジンが1分近く飛行した後に故障。ミサイルは高度70キロにも達することなく墜落した。筆者らは独自に墜落地点の情報を入手。その情報が確かなことは、昨年4~5月に撮影された衛星写真が裏付けている。

4月28日の発射実験の失敗については、綿密な分析が必要だ。特に北朝鮮がいくつもの新しい発射場から弾道ミサイルの発射実験を続けている今、その重要性は一層高い。

北朝鮮が昨年、新たな場所でミサイル発射実験を行ったのは「戦略ロケット軍」の対応力を示すためだと言われている。北朝鮮の主要民間空港であり、中国人以外の外国人訪問者の入国地点である順安空港でも、立ち入り禁止区域から弾道ミサイルが発射された。

同様の事故が首都の平壌をはじめとする人口密集地域で起こる可能性は、依然として高い。昨年4月には28日の実験以前に火星12型の発射実験が2回行われ、どちらも失敗している。このときの実験が海に面した新浦に近い発射場で行われた裏には、理由があったとも考えられる。海に近い場所から発射すれば、発射直後に墜落しても人口の多い都市部のインフラに打撃を与える可能性は低い。

記念式典の画像も証拠に

4月28日の発射実験失敗については、これまであまり報道されていない。報じられたのは、ミサイル1基の発射実験が失敗したということだけだ。

米太平洋司令部によれば、このミサイルが発射された北倉飛行場は、それまでミサイル発射に使われたことがなかった。4月に発射されたこの3基の火星12型はASBM(対艦弾道ミサイル)ではなく、新型のIRBMだった。

火星12型の基本構造は、後に登場したICBM(大陸間弾道ミサイル)の火星14型の土台となっている。火星12型は4月に3回失敗したが、5月14日に初めて発射実験に成功した。

火星12型の4月の発射実験については、北朝鮮当局が図らずも証拠を提供している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中