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伝説のロックスター

プリンスの素顔を記録した男

2017年12月13日(水)19時00分
ザック・ションフェルド(カルチャー担当)

2, パスポート写真も妥協なし
あるときプリンスから、スタジオに来てほしいと電話があった。コンサートで売るツアーブックか、雑誌の表紙写真の話だと思って出掛けたら、「アフシン、パスポート用の写真を撮ってくれ」と言う。ちょうどリハーサルを終えたところで、プリンスは上機嫌だった。

私は「からかっているんですね」と言った。ジョークが好きな人だったからね。そして「それならパスポート用の写真を撮れるキンコーズに行きましょう」と提案した。そのときのプリンスの表情といったら。それでようやく、本気で私にパスポート用の写真を撮ってほしいと思っているのだと気が付いた。

プリンスがシャワーを浴びて身支度を整えている間に、急いでパスポート用写真の仕様を調べた。撮ったことがなかったのだ。しばらくして、プリンスが最高におしゃれな格好で現れた。まるでMETガラのパーティーにでも行くような格好だった。

パスポート用写真には、ちょっとやり過ぎのような気がした。そのせいで申請が却下されてしまったら大変だ。だから「最高に決まってます。でも当局は、あなたの顔がはっきり写っている、ごくシンプルで普通な感じの写真を求めているんじゃないかと思います。今の格好は最高ですが、なんというか、もう少しドレスダウンしてもらえませんか」と頼んだ。

プリンスは私をじっと見て、「本気か?」と言うので、「写真がダメだと言われて、パスポートの発行が遅れてしまうといけないので」と説明した。すると彼はきまり悪そうに、「やり過ぎたかな」とつぶやくと、着替えに戻っていった。

彼が立ち去った瞬間、「ちょっと待った、俺は今、天下のプリンスに着替えてこいって言ったのか?」とわれに返って焦った。戻ってきたプリンスは、きれいになでつけてあった髪をクシャクシャと崩した。もう光沢のあるシャツも着ていなかった。

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『プリンス――ア・プライベート・ビュー』

3, 東京の教会にて
おしゃべりしている最中にいきなり、「明日、一緒にパナマに行ってくれないか?」「明日、モロッコに行くぞ」なんて言われるのはざらだった。そう言われれば、従うしかない。

日本をツアーで回っていたときの話だ。オフの日に、ボディーガードと3人で仙台から新幹線で東京まで足を延ばし、(ジャズ・クラブの)ブルーノートでチック・コリアのライブを聞いたことがあった。

ライブ後の午前3時か4時頃、ホテルに戻る途中でプリンスに言われた。「朝、早起きして身だしなみを整えておいてほしい。行きたい場所がある」。「分かりました。どこへ行くんです?」と尋ねると、「ロビーで朝7時に」とだけ答えが返ってきた。

少し寝て、スーツを着てロビーに降りると、リムジンが待っていて、東京の何の変哲もない一画に連れていかれた。建物に足を踏み入れると、そこは何と教会だった。

周りの日本人は、私たちにほとんど注意を払わなかった。言葉はちんぷんかんぷんだった。プリンスと一緒に東京の教会で席に座っているなんて、これまでの人生で一番浮世離れした経験だと、思ったものだ。

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パスポート用に撮影した写真 AFSHIN SHAHIDI, FROM PRINCE: A PRIVATE VIEW

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