最新記事

トランプファミリー

イヴァンカとパナマ逃亡者──トランプ一家の不動産ビジネスに潜む闇

2017年11月29日(水)12時15分

11月17日、米大統領就任前は実業家だったトランプ氏は、パナマでのホテルベンチャーを長女イバンカ氏の「任務」として担当させたが、同プロジェクトには犯罪に手を染めた人物らも関わっていたことが明らかとなった。写真左から3番目の建物が、「トランプ・オーシャン・クラブ・インターナショナル・ホテル・アンド・タワー」。パナマ市で10月撮影(2017年 ロイター/Carlos Lemos)

2007年春、パナマ市にある空港に、多くのロシア人を含む外国人が次々と到着し、迎えにきていたドナルド・トランプ氏のロゴが入った白いキャデラックにさっそうと乗り込んだ。

このリムジンは、元自動車セールスマンのアレキサンドラ・ベンチュラ・ノゲイラという名のブラジル人が経営する会社のもので、当時トランプ氏の最新プロジェクトだったパナマの70階建て複合施設開発に投資する外国人を勧誘していた。

米大統領就任前は実業家だったトランプ氏にとって初となる国際的ホテルベンチャー「トランプ・オーシャン・クラブ・インターナショナル・ホテル・アンド・タワー」には、居住用マンションやホテル、そしてウオーターフロントに建てられた帆船形の建物内にはカジノも併設されていた。

「ノゲイラ氏は外交的で明るい若者だった」。2002年にミス・ユニバースの栄冠に輝き、2007年に彼の会社「ホームズ・リアル・エステート・インベストメント・アンド・サービス」の広報を務めていたジャスティン・パセク氏はそう当時を振り返る。


「皆がホームズに感銘を受けていた。当時は不動産ブームの頂点に乗っているように見えた」

ノゲイラが自らを印象付けようとした中の1人が、トランプ氏の長女イバンカ氏だった。彼は、当時父親の不動産会社トランプ・オーガニゼーションでパナマ開発事業を担当していたイバンカ氏と「何度も」会って話した、とロイターとのインタビューで語った。

「彼女は私のことを覚えているだろう」と彼は言う。

ノゲイラによれば、彼の営業手腕にほれ込んだイバンカ氏が、彼を同プロジェクトの主任ブローカーにするよう手助けして、2人はプロジェクトを売り込むビデオにも一緒に出演したという。

ロイターは、米NBCニュースと協力してトランプ・オーシャン・クラブの資金調査を行った。その結果、同プロジェクトの事前販売の3分の1から半分は、ノゲイラが担当したことが分かった。

また彼がこのプロジェクトにおいて取り引きした相手の中に、のちにマネーロンダリング(資金洗浄)で有罪となり、現在は米国で収容されているコロンビア人や、誘拐と殺人脅迫の罪で1990年代にイスラエルで服役していたロシア人投資家が含まれることも判明した。

トランプ・オーシャン・クラブ開発に携わってから3年後、ノゲイラは同開発とは関係のない詐欺と偽造の容疑でパナマ当局に逮捕された。140万ドル(約1億5600万円)の保釈金を支払い、その後パナマから逃亡している。

あとには、ノゲイラ被告にだまされたと主張する数多くの人々が残された。その中には、トランプ・オーシャン・クラブ開発におけるマンション投資も含まれており、少なくともそれは4件の刑事事件に発展しており、8年たってもまだ解決に至っていない。

現在43歳のノゲイラ被告はこれらの容疑を否定。「私は天使ではないが、悪魔でもない」とメールでロイターに語った。

イバンカ氏は、ノゲイラ被告との関係についてコメントを控えた。ホワイトハウス報道官は、ロイターからの質問をトランプ・オーガニゼーションに送った。同社のアラン・ガーテン最高法務責任者(CLO)は、「トランプ一家含め、トランプ・オーガニゼーションの誰一人として、この個人と会ったり話したりした記憶は一切ない」と回答した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ビジネス

マスク氏報酬と登記移転巡る株主投票、容易でない─テ

ビジネス

ブラックロック、AI投資で各国と協議 民間誘致も=

ビジネス

独VW、仏ルノーとの廉価版EV共同開発協議から撤退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中