最新記事

シリア情勢

シリアでも混乱を助長するだけだったサウジアラビアの中東政策

2017年11月28日(火)19時44分
青山弘之(東京外国語大学教授)

反体制派の全体会合を主催したが矛盾した決定を下す

ロシア、イラン、トルコ、米国、シリア政府がコンセンサスに達するなか、対応を迫られたのが反体制派の統合に尽力してきたサウジアラビアだった。

反体制派は、依って立つ理念やイデオロギー、活動拠点、指導者間の個人的不仲などにより離合集散を繰り返してきた。ジュネーブ会議においては、リヤド・プラットフォームのほかに、カイロ・プラットフォーム、モスクワ・プラットフォームと呼ばれる派閥が代表団を派遣していた。モスクワ・プラットフォームは、ロシアの後押しを受けるカドリー・ジャミール前副首相(人民意志党代表)によって主導されていた。一方、カイロ・プラットフォームは、エジプトを活動拠点とする活動家からなり、そのなかには、シリア・ガド潮流代表のアフマド・ウワイヤーン・ジャルバーがいた。ジャルバーは米国が支援するロジャヴァの武装部隊である人民防衛部隊(YPG)とラッカ市解放戦で連携したシリア・エリート部隊を率いる一方で、緊張緩和地帯設置に向けたロシアと反体制派の折衝を仲介した人物だ。

サウジアラビアは、最高交渉委員会が結成された2015年12月の会合後も、2017年8月に調整会合(リヤド1会合)を開催し、反体制派の政治ヴィジョンの統一や統一代表団の結成を促していた。シリア諸国民大会に加えてジュネーブ会議(ジュネーブ8会議)の開催準備が進められるなか、同国は、今度は「リヤド2会合」と称される反体制派の全体会合を主催した。

11月22〜23日に開かれたこの会合は矛盾した決定を下した。リヤド・プラットフォーム、モスクワ・プラットフォーム、カイロ・プラットフォームの各代表に無所属活動家を加えた出席者約140人は、閉幕声明でシリア政府との「無条件の直接交渉」に応じると確認する一方で、「移行プロセス開始時にアサド政権が退陣しなければ、政治移行は実現しないと強調する」と表明したのだ。だが、その真意は、政権退陣の有無にかかわらず、無条件で交渉に応じるというものだった。政権退陣は、もはや現実味のない単なる意見表明に過ぎなかった。

会合開幕直前の20日に、政権退陣をもっとも声高に主張していた最高交渉委員会の代表(総合調整役)のリヤード・ヒジャーブ元首相と主要幹部8人が脱会を宣言したのは、おそらくはこうした結果がサウジアラビアによって予め用意されていたからだった。閉幕後にムハマド・ビン・サルマーン皇太子がロシア大統領特使と会談したこと、そしてロシアのセルゲイ・ラヴロフ外務大臣がサウジアラビアの取り組みを称賛したのも、そのためだった。

混乱を助長するサウジアラビアの中東政策

シリア内戦の政治的解決に向けて、ロシアに擦り寄ったサウジアラビアだが、それによって得たものはなかったと言ってよい。リヤド2会合の閉幕声明では、サウジアラビアの意を汲むかたちで「国家テロ、宗派主義的外国人民兵のテロなどのテロを拡散しようとするイランの役割を拒否する」という文言が盛り込まれはした。だが、それだけだった。サウジアラビアには、自らの体面を保ち、シリア内戦の「負け組」となるのを避けるため、反体制派に不本意な和平プロセスへの参加を促し、シリア政府優位のもとでの政治的解決に貢献することしかできなかった。

シリア内戦においても然り、11月初めのレバノンのサアド・ハリーリー首相辞任騒動においても然り、サウジアラビアの中東政策、とりわけ東アラブ地域政策は、混乱を助長することはあっても、その正常化や安定化に積極的に貢献しているようには見えない。リヤド2会合閉幕声明に盛り込まれたイランへの敵意表明は、サウジアラビアにとって、自らの無策を覆い隠すことができる最後の口実かもしれないが、こうした姿勢こそが中東で混乱を再燃させる主因でもあるのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・寄り付き=S&P・ナスダック1%超安

ワールド

金総書記が北京到着、娘も同行のもよう プーチン氏と

ビジネス

住友商や三井住友系など4社、米航空機リースを1兆円

ビジネス

サントリー会長辞任の新浪氏、3日に予定通り経済同友
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シャロン・ストーンの過激衣装にネット衝撃
  • 4
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 5
    映画『K-POPガールズ! デーモン・ハンターズ』が世…
  • 6
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 7
    BAT新型加熱式たばこ「glo Hilo」シリーズ全国展開へ…
  • 8
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 3
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 8
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中