最新記事

ルポ

トランプ政治集会の中で聞いた、「優しい」支持者たちの本音

2017年8月24日(木)06時33分
小暮聡子(アリゾナ州フェニックス)

ny170824-3.jpg

「どこのメディアなの?」と笑顔で話しかけてきたセリア・ゴンザレス Satoko Kogure-Newsweek Japan

ゴンザレスにトランプを支持する理由を聞くと、「謙虚で、正直で、本心の言葉を話してくれるところ」だと言う。移民を集中的に摘発した「全米一タフな保安官」のアルパイオのことは嫌いだし、強制送還されるのはドラッグと家庭内暴力(DV)をする移民だけでいいと思う。でも......と言って、こちらに「あなたはどの神を信じているの?」と聞いてきた。

無宗教だと答えると、「トランプは、ジーザスと同じ。私たちを、外国も含めてあらゆる脅威から救ってくれる」と彼女は続けた。

ゴンザレスには政策面でトランプの何を支持するのかと何度か聞いたが、明確な答えはついに得られなかった。だが彼女はとても好意的で、終始にこやかで、持参した扇子でこちらを扇いでくれたりする。トランプに心酔しているようだが、レイシストには見えない。

「CNN、最悪!」「あいつらは嘘つきだ!」

並び始めてから2時間、やっとコンベンションセンターの入り口が見えてきた。入り口の反対側を見ると、道を挟んだフェンスの向こう側に大勢のデモ隊が詰めかけている。トランプはもちろん、白人至上主義やナチスなどあらゆる差別に反対する抗議者たちだ。抗議の嵐が始まり、集会場に入っていく私たちに憎悪の目と罵倒の声をぶつけてくる。

私は今までに経験したことのない恐怖を覚えたが、トランプ支持者たちは言い返すことなく淡々と歩を進める。ゴンザレスに「怖くない? レイシストと言われてどう思う?」と聞くと、「彼らは誤解しているだけ。誰かが真実を教えてあげないとね。それに、こちらが邪魔しなければ何もしてこないわよ」という答えだった。

ny170824-5.jpg

集会会場前に大挙して怒号をあげるデモ隊 Satoko Kogure-Newsweek Japan

午後6時、やっと集会会場に入ると、そこにはトランプ支持者たちの「安全地帯」が広がっていた。憎悪の目と罵倒の声から逃れて、ホッとしている自分がいる。ゴンザレスは相変わらず優しくて、並んでいる間に友達になったらしい支持者のグループに私を入れてくれようとする。

会場内を見渡すと、白人とヒスパニックばかり。黒人とアジア系はほぼ皆無という状況で、私をステージ裏手のトランプが見える場所に誘導してくれた。

トランプの入場を待つ間、前に立っていた白人男性のビル・ウェーレン(62)に話しかけた。フェニックス郊外のグランデールから来た元警察官だという。ウェーレンがトランプを支持するのは、職業上の経験が理由だ。警察官は法を順守することが職務であり、不法移民は法を犯しているのだから取り締まって当然だとサラリと言う。

私が、「でも、この会場の外にいる人たちはそれをレイシストと呼ぶかもしれない」と言うと、「私がレイシストに見えるか? ばかげている。私の家族には、黒人もいればアジア人もいる。人種というのは、私にとっては何の意味も持たない」と一蹴された。

「白人至上主義者」や「KKK(クー・ クラックス・クラン)」、「ネオナチ」を面と向かって公言する人にはついに出会わないまま始まったトランプの政治集会(出会わなかっただけで、そうした人たちがいた可能性はある。会場の外には、イスラム教徒に差別的なプラカードを掲げる人がいた)。マイク・ペンス副大統領に続いて午後7時過ぎにトランプが登場すると、会場内はこの日一番の熱風に包まれた。

【参考記事】テレビに映らなかったトランプ大統領就任式

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、零細事業者への関税適用免除を否定 大

ビジネス

加藤財務相、為替はベセント米財務長官との間で協議 

ワールド

トランプ米大統領、2日に26年度予算公表=ホワイト

ビジネス

米シティ、ライトハイザー元通商代表をシニアアドバイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中