最新記事

東欧

ソ連支配の記憶を消したいポーランド、「報い」を誓うロシア

2017年7月20日(木)17時00分
ダミアン・シャルコフ

ワルシャワにあった赤軍とポーランド人民軍兵士の記念碑。今は撤去された Katarina Stoltz-REUTERS

<第2次大戦の歴史認識めぐりロシアとポーランドの対立が再燃>

愛国主義的な右派政党「法と正義」が政権を握るポーランドは7月17日、全体主義的な歴史を一掃する新法を成立させ、ロシアとの間に新たな緊張が生じている。

新法の狙いは、共産主義をはじめ、「その他のあらゆる全体主義」体制を美化する動きを封じること。公共の記念碑などから、全体主義体制の犠牲者を生んだ歴史的事件を美化する記述(日付や人名も含む)を消すよう義務付けている。

【参考記事】ポーランドで数万人が憲法尊重を求める反政府デモ

これに対し、ロシア政府は自国に対する「甚だしい侮辱」だと反発。議会でも制裁を検討すべきだとの声が上がっている。

「ロシアの人々と旧ソ連邦の共和国の人々を侮辱するものだ」──ロシア外務省は18日に声明を発表した。

「ソ連邦の若者たちは、ポーランドを含むヨーロッパの人々の生命と自由を守るために共通の敵と戦った。にもかかわらず、ポーランド政府は意図的に驚くべき挑発に踏み切った」

こうした暴挙には当然の「報い」があると、声明は警告している。

ロシアにとってとくに許しがたいのは、第2次大戦中にナチス・ドイツと戦って戦死し、ポーランドに埋葬されたソ連軍将兵60万人に捧げる記念碑が消えることだ。「捕虜となってナチスの強制収容所に入れられ、今はポーランドの地に眠るソ連軍兵士も何万人もいる」と声明は述べる。彼らの栄誉ある死を記念碑から消すことは許し難い暴挙だというのだ。

東欧の解放者、それとも略奪者?

第2次大戦中、ヨーロッパの東部戦線では激戦が繰り広げられ、夥しい数の犠牲者が出た。この戦いはロシア人の心を揺さぶる歴史として今でも語り継がれている。ナチス・ドイツに対する赤軍の勝利は、ソ連の不名誉な歴史を帳消しにする輝かしい偉業だ。

世論調査によれば、大多数のロシア人は今も、ソ連軍は連合軍の支援なしでもナチス・ドイツを撃退できたと考えている。

ロシアのワレンチナ・マトビエンコ上院議長は19日、ロシア外務省はポーランドへの「対抗措置」を検討中だと語ったが、詳細は明かさなかった。アントン・ベリャコフ上院議員は新法を支持したポーランドの政治家に制裁を科すことを提案している。

【参考記事】ポーランドの「プーチン化」に怯えるEU

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:日米為替声明、「高市トレード」で思惑 円

ワールド

タイ次期財務相、通貨高抑制で中銀と協力 資本の動き

ビジネス

三菱自、30年度に日本販売1.5倍増へ 国内市場の

ワールド

石油需要、アジアで伸び続く=ロシア石油大手トップ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中