最新記事

経済危機

ベネズエラほぼ内戦状態 政府保管庫には大量の武器

2017年5月23日(火)16時40分
エミリー・タムキン

Carlos BarriaREUTERS

<権力の座にしがみつこうとする一人の独裁者のせいで、経済と政治の危機から戦争状態へ>

南米のベネズエラでは、すでに泥沼化していた危機がさらに深刻さを増している。ニコラス・マドゥロ大統領の退陣を求める抗議活動が2カ月ほど前に始まってから、デモによる死者は少なくとも49人に上っている。5月22日には、ストリートで怒り狂っていた民衆が1人の男性の体に火をつけた。目撃者はその男性を窃盗犯だとしているが、政府は大統領支持派だったと述べている。また、独裁者だった故ウゴ・チャベス前大統領の銅像を破壊していたデモ隊は、飽きるとチャベスの母親の家に放火した。

そうした容赦ない破壊行動の大半は一般市民によるもので、その発端は、今年3月に政府が議会の立法権を剥奪しようとしたことだ。議会は野党の最後の砦だ。反発したのは民衆だけではない。マドゥロ派の中心人物と見られてきたルイサ・オルテガ検事総長が5月22日、マドゥロ寄りの議員で構成する議会を発足し憲法を書き直そうとする計画に公然と反対した。政治的・経済的な危機が制御不能に陥るなか、何としても権力の座にしがみつこうとするマドゥロの最後の試みだ。

【参考記事】「国家崩壊」寸前、ベネズエラ国民を苦しめる社会主義の失敗

オルテガが初めて反対の声を上げたのは今年3月、最高裁が議会の権限を剥奪しようとしたときだ。ベネズエラ中に驚きが走った。最高裁による決定はその後ほとんどが撤回されたが、いったんタガが外れた暴動は元には戻らず、何十万人ものベネズエラ人がマドゥロ政権に対する抗議行動を続けている。

【参考記事】経済危機のベネズエラで大規模な反政府デモ、17歳死亡

狙撃兵がデモ隊を狙う

ベネズエラはあらゆる意味で戦場だ。首都カラカスは治安部隊の戦車などで占拠されている。報道機関やソーシャルメディアは、マドゥロ政権が狙撃兵を投入してデモ隊を攻撃していると報じている。体制崩壊のときに何が起こるかわからないという恐れも広まっている。ロイター通信が5月22日に報じたところによると、ベネズエラ政府は「ロシア製の携帯式地対空ミサイルシステムを5000基」保持しているという。

ベネズエラ政府はこれまで、「帝国主義」のアメリカが侵攻してくる恐れがあるとして、武器備蓄を正当化してきた。その軍備は南米最大だ。今のような不安定な状況下で、アメリカ製携帯式防空ミサイル、スティンガーミサイルのような兵器が政府保管庫から流出すれば、大変な脅威となるだろう。

【参考記事】ベネズエラへ旅立つ前に知っておくべき10のリスク

オルテガ自身が抗議行動に参加したわけではないかもしれない。しかし、マドゥロが選挙を遅らせて開こうとしている「憲法制定議会」れを公然と非難する書簡を書いたことは事実だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アップル、関税で今四半期9億ドルコスト増 1─3月

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P8連騰 マイクロソ

ビジネス

加藤財務相、為替はベセント財務長官との間で協議 先

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中