最新記事

ロシア

プーチンを脅かす満身創痍の男

2017年5月23日(火)10時00分
マーク・ベネッツ

何十年も抗議活動を続けているナワリヌイだが、その名が知られだしたのは11年12月のロシア下院選挙後、不正に抗議する反政府デモが巻き起こったときから。ナワリヌイは後にモスクワ市長選に立候補し、敗れたものの30%近い票を得た。

若者世代がデモの主役に

反政府運動のために、彼は何度も短期の身柄拘束を経験している。13年には横領罪で有罪判決を受けながらも翌日に保釈され、後の抗告審判で執行猶予付きに減刑。14年には弟のオレクが汚職で有罪判決を受けた。

時間は要したがナワリヌイの主張は確実に浸透してきた。3月のデモは、政府にとっても想定外だったようだ。11~12年のデモはモスクワに限定され、年配の中流層が主な担い手だった。だが今回は各地でデモが巻き起こり、プーチン政権しか知らない若者世代が広く共鳴した。

「大人たちとは違い、私たちは誰もが検閲済みと分かっている国営テレビではなくインターネットから情報を得ている」と、サンクトペテルブルクの18歳の学生エレナは言う。「大人の多くは変化を諦めているが、私たちはいつの日か普通の国で生きるという希望を捨てていない」

ナワリヌイと支持者たちも、同じ希望を抱いてきた。彼らは大統領選出馬を目指し、各地に事務所を開設している。ナワリヌイによれば、3カ月間で2630万ルーブル(約45万ドル)の寄付金が集まり、7万5000人以上がボランティアに応募してくれたという。

【参考記事】ロシアの地下鉄爆破テロに自作自演説が生じる理由

magw170523-russia02.jpg

拘束されたナワリヌイを乗せた警察車両を阻む支持者たち Maxim Shemetov-REUTERS

彼の選挙運動は既に、現代ロシアでは前代未聞の様相を呈している。アメリカなどとは異なり、ロシアの立候補者は一般的に、選挙の数カ月前までキャンペーンを始めない。プーチンに至ってはそんな暇などないと公言し、00年に政権に就いてから選挙活動らしきものをほとんど行わずにきた。対立候補と顔を合わせて討論したこともない。

だがナワリヌイが正式な候補者になるためには、途方もない障害を乗り越えなければならない。ナワリヌイは2月に横領罪で執行猶予付き懲役5年の有罪判決を受け、大統領選に出馬できるかどうかが危ぶまれている。5月初めには中部キーロフ州の裁判所が2月の判決を支持するとの決定を下した。

ロシアの法律では、刑事事件で有罪となった者は公職選挙への立候補が禁じられる。ただし憲法には、「収監されている市民は出馬できない」とあるため、ナワリヌイは自分が候補者になる資格はあると主張する。12月にはロシア中央選挙管理委員会が、その立候補の可否を判断するだろう(不都合な人物は立候補を阻止されるのが普通だが)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

2回目の関税交渉「具体的に議論」、次回は5月中旬以

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米国の株高とハイテク好決

ビジネス

マイクロソフト、トランプ政権と争う法律事務所に変更

ワールド

全米でトランプ政権への抗議デモ、移民政策や富裕層優
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中