最新記事

米軍事

ヨーロッパを遠ざけロシアを引き寄せたトランプのNATO演説

2017年5月26日(金)16時00分
ロビー・グレイマー

「弱い者いじめ」に終始したトランプの演説には同盟国首脳も困惑 Jonathan Ernst-REUTERS

<ヨーロッパの同盟諸国に対し、応分の防衛費を払えとしつこく言うだけで、集団防衛の確約は与えないトランプのやり方はロシアを喜ばせただけ>

ドナルド・トランプ米大統領は、昨年の大統領選期間中、NATO(北大西洋条約機構)を「時代遅れ」と批判し、応分の防衛費を負担しない加盟国を防衛する義務はない、と主張した。今週25日、ベルギー・ブリュッセルで開催されたNATO首脳会議で、加盟各国は大統領として初の出席となるトランプの後ろ向きな姿勢が変わるかどうか注視していた。とりわけ、NATOの根幹となる「集団防衛」義務を守ると言って欲しかったのだが、期待は見事に裏切られた。

完成したばかりのNATO新本部で演説したトランプは、加盟各国の首脳らが明らかに困惑した表情を浮かべるなか、各国が応分の防衛費を負担していないと厳しく批判した。トランプの大統領就任以降、アメリカとヨーロッパの同盟国との間にはぎくしゃくした関係が続いているが、トランプに関係修復の意思はみられなかった。

【参考記事】マティスはNATOへの最後通牒から引き返せるのか

「アメリカの納税者にとって不公平だ」と、トランプはさらに続けた。「多くの加盟国は長年の借りがあり、返済する様子もない」(NATOには国連のような分担金はないので、トランプが正確に何の話をしているのかは不明)

ロシアの脅威は無視

GDPの2%を防衛費として負担するというNATOの基準目標を現時点で満たしているのは加盟28カ国のうち5カ国(アメリカ、イギリス、ポーランド、エストニア、ギリシャ)だけ。それがアメリカと欧州加盟国との間で長年未解決になっていたことは事実だ。

しかしトランプは、NATOの存在価値に疑義を呈し、ヨーロッパの地政学的脅威であるロシアをあからさまに称賛したことで、米欧間に新たな緊張をもたらしている。

【参考記事】トランプとロシアの接近に危機感、西側同盟国がアメリカをスパイし始めた

もう一つの重大なシグナルは、NATO加盟国が攻撃を受けた場合、他のすべての加盟国が防戦すると規定したNATO条約第5条項(集団防衛)の意義について、トランプが明言を避けたことだ。第5条は、1949年のNATO発足以来の統合と抑止力の要だ。

トランプが演説でこの原則への支持を明言しなかったことは、攻撃を受けてもアメリカが防衛に参加しないのではないかと不安を感じるNATO諸国を、さらに動揺させている。

テロの脅威に言及した一方で、ロシアの脅威には触れなかった。特にバルト三国にとっては、ロシア軍の侵攻は現実の脅威だ。いざというときは米軍が頼りだが、トランプは何の保証も与えなかった。

【参考記事】バルト3国発、第3次大戦を画策するプーチン──その時トランプは

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相が就任会見、米大統領に「日本の防衛力の充実

ビジネス

米GM、通年利益見通し引き上げ 関税の影響額予想を

ワールド

インタビュー:高市新政権、「なんちゃって連立」で変

ワールド

サルコジ元仏大統領を収監、選挙資金不正で禁固5年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 6
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中