最新記事

持続可能

アイルランド下院、化石燃料からの投資撤退法案を世界で初めて可決

2017年2月24日(金)15時00分
松岡由希子

Voyagerix-iStock

<アイルランドの下院は、石炭や石油、ガスなどの一切の化石燃料への投資を停止する法案を可決した。化石燃料からの投資撤退を推進する活動は、欧米で急速に広がっている...>

アイルランドの下院は、2017年1月26日、同国の経済活動や雇用を支援するべく創設された「アイルランド戦略投資基金(ISIF)」において、石炭や石油、ガスなどの一切の化石燃料への投資を停止する法案を賛成多数で可決した。

この法案が成立すれば、アイルランド国債管理庁(NTMA)により、今後5年間をかけて、81億ユーロ(約9,720億円)規模にのぼるISIFの資金がすべての化石燃料から引き揚げられることとなる。

化石燃料からの投資撤退を推進する活動は、近年、欧米で急速に広がってきた。

世界最大の石油財閥・ロックフェラー家の関連財団であるロックフェラー兄弟財団(RBF)が2014年9月に化石燃料からの投資の引き揚げを宣言したほか、米サンフランシスコ、仏パリ、独ベルリン、英オックスフォード、豪シドニーなど、世界70都市でも同様の動きがみられる。

国レベルでは、ノルウェー議会が、2015年6月、石炭からの投資の引き揚げを決議した例があるが、すべての化石燃料を対象とした投資の引き揚げを法律で定めるのは、アイルランドが世界で初めてだ。

アイルランド環境保護庁(EPA)によると、アイルランドの温室効果ガス(GHG)総排出量は、2001年の7,140万トンをピークに減少傾向にあり、2015年時点で5,984万トン。うち、エネルギー分野に起因するものの割合が19.7%を占めている

アイルランド政府は、温室効果ガスの排出量を2030年までに2005年比で30%削減することを目標に掲げ持続可能エネルギー局(SEAI)を中心に、省エネルギー化や再生可能エネルギーへのシフトを積極的に推進してきた。

また、首都ダブリンでも、2010年12月、持続可能な都市づくりを目指す10カ年計画「Dublin City Energy Action Plan 2010 - 2020」において、2020年までにエネルギー消費量を33%削減する目標を示している。

ISIFの化石燃料からの投資撤退にまつわる法案には、政府への請願に署名した1万1,000人以上のアイルランド国民の声も後押ししたとみられている。

この法案は、財政委員会での審議などを経て、数ヶ月以内に成立する見込み。投資の観点から"化石燃料からの脱却"の意思を明確にしたアイルランドに対して、世界の政財界がどのような反応を示すのかも、興味深いところだ。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、15日にトルコで直接協議提案 ゼレンス

ビジネス

ECBは利下げ停止すべきとシュナーベル氏、インフレ

ビジネス

FRB、関税の影響が明確になるまで利下げにコミット

ワールド

インドとパキスタン、停戦合意から一夜明け小康 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 3
    「隠れ糖分」による「うつ」に要注意...男性が女性よりも気を付けなくてはならない理由とは?
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 9
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 10
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中