最新記事

北朝鮮

金正男殺害を中国はどう受け止めたか――中国政府関係者を直撃取材

2017年2月20日(月)07時36分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

消したかったのは「後継者」ではなく張成沢系列

中国政府関係者は言う。

「もし仮に、金正男が金正恩の指示によって殺害されたのだとすれば、それは"血のつながりのある"後継者の可能性を消したのではなく、張成沢系列を抹消するためだと考えなければならないだろう。何度も言うが、金正男の後継者可能性はゼロだ!そこは勘違いしないように!しかし張成沢ならば、北で力を持ち得たし、北の改革開放を進めるためにクーデターといったような手段を用いて政権転覆を謀る力は持ち得た。その残党狩りをしているのではないのか」

「金正男が暗殺されたことで、中国で何かが大きく変わることは全くない。もしこの暗殺が、中国の領土上で起きたのだとすれば別だ。中国も黙ってはいないだろう。しかし、マレーシアという、他の国を選んでいる。国家として(遺体引き渡しなど)何かの軋轢が生まれるとすれば、それはマレーシアとの間であって、中国ではない。2011年以降、何回か金正男暗殺未遂事件があった。中国の国土上で金正日元総書記の長男を殺害するようなことがあったら、中朝同盟を損なう要素はあっただろう」

むしろ北朝鮮内部の抗争と混乱が問題

今後の問題はむしろ、北朝鮮内部の抗争と混乱にあるという。

「今回の問題は道義的に許されないものの、金正男暗殺によって中国がどう動くかという要素はほぼない。それよりもやっかいなのは、北朝鮮内部の権力抗争問題だ。現に15日に北朝鮮で開催された金正日元総書記の生誕75周年記念大会には、党内序列ナンバー2の崔龍海(チェリョンヘ)が出席していない。彼は2013年5月に金正恩の特使として訪中し習近平と会っており、2015年9月の抗日戦争勝利70周年記念の軍事パレード式典にも一応参加はしているが、北朝鮮内では昇格したり降格したり、実に不安定だ。なぜなら彼は張成沢の側近だったからだ。中朝友好に貢献して改革開放を進めようとした張成沢一派はつぎつぎに粛清されているが、今後もどのような動きがあるかを見ていれば、金正男がなぜ殺害されたのか、中朝関係がどうなるのかが見えてくるだろう」

中朝同盟の下での外交努力か、武力鎮圧か

習近平政権誕生以来、中朝首脳会談が行われたことがない。これまで「日中、中韓、日韓」首脳会談が行われているのに、中朝首脳会談だけは行なわれていないという事実は、いかに中朝関係が悪いかを示す何よりの証拠だ。北がどうしても中国の言うことを聞かず、核ミサイル開発で暴走を加速させるなら、いざとなったら中国が北を武力攻撃して政権を転覆させる可能性だってある。この点に関して取材対象である中国政府関係者と筆者の見解は一致している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中