最新記事

トルコ情勢

溝が深まるトルコとEUの関係

2017年2月24日(金)17時50分
今井宏平(日本貿易振興機構アジア経済研究所)

ドイツのメルケル首相はアンカラを訪れ、トルコのエルドアン大統領と会談した。2月2日  Umit Bektas-REUTERS

<移民への対応によって、トルコとEUの関係は良好なものになることが予想されたが、この1年間でその関係はむしろ後退した。EU各国で選挙が目白押しの今年、移民の防波堤としてのトルコの役割は必要不可欠だ>

ここ1年の間、トルコ外交で大きな変化が見られたのはロシアとの関係である。2015年11月24日のロシア機撃墜事件で両国関係は悪化したが、2016年6月29日に関係を改善して以降、緊密な関係を維持している。ロシアとの関係に匹敵するほど大きな変化が見られたのは、ヨーロッパ連合(EU)との関係である。

移民の防波堤として不可欠なトルコ

2016年3月18日、トルコとEUはヨーロッパに流入したシリア難民を中心とする大量の移民への対応に関して、トルコが、(1)2016年3月20日以降にギリシャに不法入国した移民をいったん全て受け入れる、(2)2016年3月18日時点でギリシャに滞留している移民は登録を受け、個人的に庇護申請をギリシャ政府に提出する。そして、その中に含まれるシリア人と同じ人数のトルコに留まるシリア難民をEUが「第三国定住」のかたちで受け入れる、(3)トルコとギリシャ間の国境監視の強化する、ことが決定した。

一方EUは、(1)トルコ人にEU加盟国のヴィザなし渡航の自由化を2016年6月末までに実現するよう努める、(2)トルコ国内のシリア難民支援に2016年3月末に30億ユーロ、2018年末までに新たに30億ユーロ、合計で60億ユーロ(約7800億円)を支出する、(3)トルコのEU加盟交渉を加速させる、ことなどを約束した。

【参考記事】EU-トルコ協定の意義と課題

2015年の夏から大量の移民が流入するようになり、各国で大きな混乱を経験したEU諸国、特に多くの難民が最終目的地として目指したドイツにとって、移民の防波堤としてトルコは協力が不可欠な国家であった。裏を返せば、EU加盟交渉国であるものの、交渉が延々と進まないトルコであるが、EUに対して移民の食い止めという切り札を持っていることがはっきりした。

【参考記事】トルコという難民の「ダム」は決壊するのか

トルコへの不信感が募るEU

移民への対応によって、トルコとEUの関係は良好なものになることが予想されたが、この1年間でその関係はむしろ後退したと言えるだろう。その原因は大きく2つある。

まず、EU側が約束したトルコ国民に対するEU加盟国へのヴィザなし渡航の自由化が2017年2月現在でも実現していない点である。

EU側は各国に課しているヴィザなし渡航の自由化の条件をトルコも全て満たしたうえで手続きを進めるとしているが、トルコの対テロ法案、党財政、司法協力に関する改革が未だに不十分であるため、ヴィザなし渡航の自由化が実現していないと説明している(News. com. au) 。

トルコ側は早期の実現を目指しているものの、4月16日に予定されている憲法改正に関する国民投票までは具体的な動きはないと予想されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本の経済成長率予測を上げ、段階的な日銀利上げ見込

ビジネス

今年のユーロ圏成長率予想、1.2%に上方修正 財政

ビジネス

IMF、25年の英成長見通し上方修正、インフレ予測

ビジネス

IMF、25年の世界経済見通し上方修正 米中摩擦再
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 8
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 9
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 10
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中