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トルコ情勢

トルコで増殖するグローバル・ジハード

2017年1月30日(月)15時00分
今井宏平(日本貿易振興機構アジア経済研究所)

 トルコ出身のISのメンバーは大きく3つのグループに分類することが可能である。まず、幹部クラスに多いのがIS以前にもアル・カーイダやヌスラ戦線といったテロ組織に加わっていた根っからのテロリストである。2つ目のグループは、クルド人のイスラーム系過激派組織で1990年代に活発に活動したトルコ・ヒズブッラーの流れを組む者たちである。トルコ・ヒズブッラーはPKKとの抗争で双方合わせて700名が死亡したと言われており、クルドという共通の民族ながら、PKKおよびその支持者たちに明確な敵意をもっている。トルコ・ヒズブッラーは武力闘争を放棄したが、一部の過激派がISに渡ったと見られている。3つ目のグループは、ISのリクルーターであるムスタファ・ドクマジュによって見出された、アディヤマン県出身者が多数を占める若者たちである。急速にイスラームに傾倒し、ISの過激な思想に惹かれた若者たちは、ISによって自爆テロ犯に仕立て上げられた。

 いずれにせよ、当初、トルコで発生したISのテロは、トルコ出身のISメンバーによる「ローカル」なテロであった。トルコにおけるISのメンバーは、襲撃対象をクルド人と外国人観光客に絞っていた。

トルコにおけるグローバル・テロの増加

 ローカルなテロが中心であったトルコで、最初のグローバルなテロ、すなわち外国人戦闘員によるテロが起きたのは2016年6月28日である。トルコの玄関口であるイスタンブルのアタテュルク国際空港で47名の人々が無差別に銃撃された事件は世界に衝撃を与えた。実行犯はロシア人(チェチェン出身)、ウズベキスタン人、クルグズスタン(キルギス)人という旧ソ連系のテロリストであった。ウズベキスタンやクルグズスタンからは500人前後、カザフスタンやトルクメニスタンからも300人以上がISに加わっていると見られている。アタテュルク国際空港でのテロとオルタキョイでのテロは、実行犯が中央アジア出身であること、襲撃対象が無差別であったこと、など共通点がある。

 多様な民族にルーツをもち、地政学的に交通の要所であったトルコ、特にイスタンブルには多様なコミュニティが存在する。また、中央アジア、南コーカサスに位置するアゼルバイジャンやジョージアからトルコへ留学する学生も多い。テロリストたちはこうしたトルコの特性を逆手にとり、トルコに潜入し、テロを実行している。

 トルコが対ISの姿勢を明確にし、シリアに越境攻撃している現在、こうしたグローバル・テロの脅威は今後も続くことが予想される。一定の地域を占領して襲撃するような「面」のテロの勃発の可能性は低いが、レイナの事件のような「点」のテロはいくら警備を強化しても全て防ぐことはできないだろう。

 マシャリボフが人の多い場所を選んだと供述していることから、観光地、ショッピングモール、レストランなど人混みが多い場所へ行くことは極力避けた方がよいと考えられる。魅力的な観光地であるイスタンブルからテロの脅威が一層されることを願ってやまない。

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