最新記事

米中関係

トランプとうり二つの反中派が米経済を担う

2017年1月4日(水)09時00分
アイザック・ストーン・フィッシュ

Andy Kropa/GETTY IMAGES

<トランプ政権で貿易政策を率いるピーター・ナバロは、危険なほど単純な対中国強硬策を唱える人物>(写真:ナバロの著作『中国による死』はドキュメンタリー映画にも)

 トランプ次期米大統領は、10年間で2500万人の雇用を創出するとぶち上げて当選したが、その壮大な計画の旗振り役が決定した。カリフォルニア大学アーバイン校教授でトランプ陣営の政策アドバイザーを務めたピーター・ナバロが、新設される「国家通商会議」のトップに指名されたのだ。

 政権移行チームによれば、ナバロは「貿易赤字を縮小し、成長を拡大し、雇用の国外流出を阻止する政策を進める」。つまり今後は、ナバロがアメリカ経済のカギを握ることになる。実はそれこそが、懸念材料だ。

 ナバロの最近の記事や著作やインタビューを見れば、彼がトランプと同じ戦略の持ち主であることが分かる。非現実的な経済構想に基づく大胆な約束を好み、詳細な説明は放棄。トランプ同様、ナバロは米経済の苦境の原因を超単純化して考えている。中国がアメリカの雇用を奪っているのであり、中国に対処すれば雇用を取り戻せる、と。

 ナバロの著作『中国による死』は、彼の経済観を表している。「自由貿易というトロイの木馬にまたがった『捕食者』中国が米製造業の数百万の雇用を奪ってきた」と、彼は書く。

 中国の為替操作も過剰に敵視。近年進むオートメーション化やグローバリゼーションなどのより大きな要素は無視して、アメリカ製造業衰退の原因を中国という一点に単純化している。

【参考記事】中国が笑えない強気で短気なトランプ流外交

 こうした主張のいくつかは、単なる事実誤認だ。彼は汚染された輸入中国食品を食べるのは「自殺行為だ」と書く。「中国の労働者の間では手足切断事故と癌が蔓延している」とも。

 文章をこき下ろしたくはないが、ナバロはもっとまともに書けたはずだ。各章のタイトルには、タブロイド紙から寄せ集めて交ぜ合わせたようなとっぴな言葉が並ぶ。「いかにして中国政府の『掃除機』がアンクル・サムの首つり縄を吸い込んでいるか」「見て、デススターがシカゴを狙っている」といった具合だ。筆者は中国関連の書籍をたくさん読んでいるが、内容といい書き方といい、ここまでひどいものは初めてだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中