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米中関係

「中国から雇用を取り戻す」トランプ政策の勝算はゼロ

2016年12月23日(金)11時00分
ハリー・ブロードマン(本誌コラムニスト)

 まず第1に、トランプが雇用を守ると言っているアメリカの労働者は、消費者でもある。輸入品の関税が高くなれば、彼らも物価上昇に苦しめられることになる。
 
 次に、中国に拠点を置くアメリカ企業の子会社は、アメリカへの主要な輸出業者だ。関税を上げれば、それは実質的に増税を意味し、アメリカ企業の競争力を高めるというトランプの狙いもくじかれる。

 第3に、トランプの主張は、中国からの輸入品に高関税をかければ、アメリカ企業は生産拠点を中国から国内に戻すはずだという考えに基づいている。しかしこうした企業の大半は、短期的な利益予測に基づいて投資をすることはない。

 企業がアメリカに戻ってこないばかりか、正反対の結果を生む恐れもある。国内市場での販売に高関税をかけられるなら、それほど多額の「税金」を払わなくて済む第三国の市場で商品を販売しようという動きにつながるかもしれない。

【参考記事】次期米国防長官の異名を「狂犬」にした日本メディアの誤訳

 最後に、中国が報復しない保証はどこにもない。向こうがアメリカ企業とその製品に同じように高率の関税をかけてくると考えないのは甘過ぎる。過去にもそうした例はあるし、今回そうした事態になれば理は中国にあり、国際社会も中国の肩を持つだろう。さらに悪いことに、中国で商売をしているアメリカのライバル国に付け入る隙を与えることにもなる。

 トランプが対中国で強硬な貿易政策に着手しようとしても、当のアメリカの企業と消費者から強い反発を受けて、もう一度「転換」することを余儀なくされるはずだ。

[2016年12月27日号掲載]

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