最新記事

フィリピン

マルコス元大統領を英雄墓地に埋葬したがるドゥテルテの思惑

2016年11月14日(月)17時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

 マニラ国際空港近くの緑豊かな広大な敷地にあるフィリピン英雄墓地には独立戦争や太平洋戦争などで祖国に殉じた約4万1500人の兵士が英雄として眠る。兵士以外にもガルシア大統領、マカパガル大統領など国家英雄も埋葬され、今年1月にはフィリピンを公式訪問した天皇皇后両陛下も慰霊のために訪れている。

「英雄か独裁者か」の議論

 フィリピン歴代大統領は大統領に就任する度にこの「マルコス埋葬問題」に直面したが、反対派の根強い抵抗などから決断に踏み切れなかった。ただ一人、エストラーダ元大統領が前向きの姿勢を公にしたが、予想通りの激しい抵抗に遭い最終的に断念した経緯がある。

 ピープルズパワーで大統領の座を追われた経緯や弾圧で殺害され、行方不明となった人権活動家などの家族、支援団体にしてみれば、どんなに経済成長、米国との同盟関係強化などの「功績」を勘案しても、やはり「英雄として埋葬するには抵抗がある」というのだ。言葉を変えればそれは「独立を守るために戦場に倒れた兵士などの英雄と同じ墓地に(マルコス元大統領を)埋葬することには心理的抵抗が根強く残っている」(地元紙記者)というフィリピン人の複雑な心の背景がある。

なぜ今マルコス埋葬問題なのか

 最高裁の決定を受けて、フィリピン・カトリック・ビショップ会議は11月9日に「(最高裁の決定は)エドサ革命の精神を侮辱するもので、非常に悲しい。民主主義復興を掲げた国民の闘いを無にするものだ」という声明を出して反対を公にした。

 長女アイミー州知事が「フィリピンは前進しなければならず、前進には平和と許しが必要だ」と述べ、父親の英雄墓地埋葬に理解と支持を訴えたことに対しても、キリスト教関係者は「平和は正義の上にこそ成り立つ」と反論。さらに「二度と再びあのような強権的圧制がフィリピンに訪れることがないように我々はあの時代を記憶し、若い世代に正しく伝えていかなくてはならない」との立場を明らかにして反対を訴えている。

 これまでの「バヤン」のような民間組織に加えてフィリピン社会に大きな影響力をもつキリスト教組織が「反対声明」を出したことで、今後反対運動が盛り上がるのは確実だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

サノフィ、米ダイナバックスを22億ドルで買収 成人

ワールド

米、ベネズエラ石油「封鎖」に当面注力 地上攻撃の可

ビジネス

午前の日経平均は小反発、クリスマスで薄商い 値幅1

ビジネス

米当局が欠陥調査、テスラ「モデル3」の緊急ドアロッ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中