最新記事

特別講義「混迷のアメリカ政治を映画で読み解く」

この映画を観ればアメリカ政治の「なぜ」が解ける

2016年11月7日(月)15時10分
藤原帰一(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

fujiwara-a161107-2.jpg

ニューズウィーク日本版創刊30周年記念イベントでの講演の様子

 この話を聞くと、「ドナルド・トランプとは全然違う」とお考えになるかもしれませんが、トランプに期待しているアメリカ国民のニーズというのはこれなんです。既成の政治家と違う、普通のアメリカ人の考え方を代弁してくれる人がアメリカの政治に登場するという期待感はずっとある。トランプは率直に言ってグロテスクな例だと思いますが、その1つの表れなんですね。ただ『スミス都に行く』には大統領は登場しない。上院議長の副大統領もちょっと顔を出すだけ。言って見れば、大統領はずっと後ろで温かく見守るような存在として背景に出てくるに過ぎない。


『未来は今』
 1994年、監督/ジョエル・コーエン

 その点でまた1つ別の例を挙げたいのですが、『未来は今』というコーエン兄弟の映画です。もちろんこれは政治映画とはまったく違う作品なのですが、アイゼンハワー大統領が出てくる。そして、アイゼンハワー大統領がフラフープを発明した青年に「君のことを誇りに思うよ」と電話を掛けてくる。それだけです。アメリカの大統領が一般の国民に電話をかけること自体が大変なのですが、逆に言うとアイゼンハワーというのは電話を掛けるだけの人。国民を温かく見つめる、慈悲深いお父さんのような存在。ですから、大統領が直接表現されることはあまりない。陰で温かく見守る以上の存在ではない、という時代です。これが劇的に展開するのがケネディの時代です。

【参考記事】CIAとケネディ大統領の「密談」を公開

(2)1963年11月22日、ケネディ暗殺と権力の陰謀

 それまでの大統領と違って、ケネディはテレビを活用した人です。ケネディはニクソン候補とのテレビ討論で大変な成功を収めるんですね。討論そのものはニクソンの勝ちだという人が政治評論家では多かったのですが、国民の反応は圧倒的にケネディに傾いた。ケネディ大統領と奥さんのジャクリーヌはホワイトハウスに住んでいるのですが、それがあたかもアーサー王の宮殿のようだ、ということで、ミュージカルにも描かれた、アーサー王の宮廷キャメロットになぞらえるほどでした。


『JFK』
 1991年、監督/オリバー・ストーン

 アメリカの憧れが強まっていたところ、この非常に人気の高い大統領が暗殺される事件が起きました。事件は1963年11月22日に起きるのですが、この暗殺についてはさまざまな陰謀があったのではないか、という疑惑がその後も残ることになる。副大統領のリンドン・ジョンソンが大統領になるように工作したんじゃないかとも言われ、アメリカの政治の闇に関心が集まりました。そして、事件はアメリカ映画と政治の関わりを変えてしまうんですね。アメリカ大統領は背後で温かく見守ってくれる存在という時代だった。それが大統領暗殺事件を契機に、アメリカ社会の裏を描くことへの関心が高まります。オリバー・ストーンという監督は本人も自覚されているように、陰謀説を唱えることが仕事のようになった人。その『JFK』はケネディに関わるさまざまな陰謀をベースにした作品です。

【参考記事】Picture Powerケネディ大統領暗殺をとらえた 市民たちの記録

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇

ワールド

ゴア元副大統領や女優ミシェル・ヨー氏ら受賞、米大統

ワールド

ハマス、カイロに代表団派遣 ガザ停戦巡り4日にCI

ワールド

フランスでもガザ反戦デモ拡大、警察が校舎占拠の学生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中