最新記事

イラク

民族消滅に近づくイラクの少数派

2016年7月6日(水)16時25分
ルーシー・ウェストコット

Rodi Said/File Photo-REUTERS

<10年以上も戦争が続くイラクで、ヤジディ教徒などの宗教的・民族的少数派が消滅の危機に瀕している。ISISに殺されたり性暴力の被害に遭うなど実際の人口も減っている。最近イラク政府が奪還した後のファルージャも平和からは程遠い> (ISISの暴力から逃れ、シリア国境に向けて歩くヤジディ教徒)

 10年以上も戦争が続くイラクで、宗教的・民族的少数派が「消滅」の危機に瀕している。

 2014年6月にISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)がイラク北部の都市モスルを制圧して以来、同国の少数派に属する数千人が、拉致され、重傷を負い、あるいは殺害されている。その中には、ISIS戦闘員にレイプされたり、結婚を強制されたり、性奴隷にされたりした女性と少女も含まれるが、正確な人数は分かっていない。

政府軍の反攻で100万人が追われる

 これは、4つの人権団体──マイノリティー・ライツ・グループ・インターナショナル(MRG)、代表権をもたない国民・民族機構(UNPO)、国際法・人権研究所(IILHR)、ノー・ピース・ウィズアウト・ジャスティス(NPWJ)──が今月4日に発表した報告書による告発だ。イラク政府が今後、モスルの奪還に向けて動けば、それにより計100万人が影響を受け、居場所を追われるだろうと報告書は警告している。

 米軍主導の多国籍軍がイラクに侵攻した2003年以来、少数派の危機的状況に関しては何度も報告がなされてきた。その最新版となる今回の報告書によれば、現在の紛争では、ISISだけでなく、イラク治安部隊、民衆動員部隊(シーア派民兵)、ペシュメルガ(クルド人自治区の治安部隊)といった複数の紛争当事者が戦争犯罪を犯している。化学兵器の使用、レイプ、拷問、少年兵の勧誘などだ。国連調査官も今月初旬、ISISが少数派ヤジディ教徒を集団虐殺していると非難した。

【参考記事】連日の大規模テロ、ISISの戦略に変化

「13年間の戦争により、イラク社会には悲惨な長期的影響が出ている」と、マイノリティ・ライツ・グループ・インターナショナル(MRG)のマーク・ラティマーは述べる。「少数派に対する影響は壊滅的だ。サダム(・フセイン元大統領)はひどかったが、状況はさらに悪化した。何万人もの宗教的・民族的少数派が殺され、数百万人が命からがら逃げ出した」

キリスト教徒は115万人、ヤジディ教徒は20万人減少

 実際、過去13年間で著しく人数を減らした少数派集団もある。イラクのキリスト教徒は2003年時の140万人から減って、現在は25万人以下。ヤジディ教徒(2005年時の70万人から50万人に減少)やカカイ教徒などの少数派は、住み慣れた土地を追われ、シーア派トルクメン人やシャバク人はイラク南部にまで追いやられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

逮捕475人で大半が韓国籍、米で建設中の現代自工場

ワールド

FRB議長候補、ハセット・ウォーシュ・ウォーラーの

ワールド

アングル:雇用激減するメキシコ国境の町、トランプ関

ビジネス

米国株式市場=小幅安、景気先行き懸念が重し 利下げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 5
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 6
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 7
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 8
    ハイカーグループに向かってクマ猛ダッシュ、砂塵舞…
  • 9
    金価格が過去最高を更新、「異例の急騰」招いた要因…
  • 10
    今なぜ「腹斜筋」なのか?...ブルース・リーのような…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨッ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にす…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中