最新記事

自動車

バラ色の未来描く自動運転車は、自動車関連ビジネスを崩壊させるパンドラの箱?

タクシーやバス、配達トラックの運転手などが失業、保険会社も厳しい状況に

2016年5月15日(日)15時18分

 4月26日、自動車メーカーやハイテク企業は、自動運転車が普及すれば交通事故が減ってバラ色の未来が訪れると夢見ているが、全員が勝ち組になるとは期待できない。写真は、「オートパイロット」機能で運転中の米テスラの「モデルS」セダン。カリフォルニア州で昨年10月撮影(2016年 ロイター/Beck Diefenbach)

自動車メーカーやハイテク企業は、自動運転車が普及すれば交通事故が減ってバラ色の未来が訪れると夢見ているが、全員が勝ち組になるとは期待できない。家計は楽になるが、メーカーの販売台数は激減し、保険会社にも悪影響が及ぶ可能性がある。

完全自動運転車が普及し、ウーバー・テクノロジーズのような配車サービスを使ってスマートフォンで呼び出せるようになれば、多くの消費者は自動車を所有しなくなるかもしれない。1家で2台所有している先進国では、その数が1台に減る可能性がある。

そうなれば家計は懐が潤う。米国の家計では通常、自動車は2番目に大きな買い物だが、9割の時間は稼動していない。

一方で自動車メーカーは苦境に陥る。バークレイズのアナリスト、ブライアン・ジョンソン氏は昨年のリポートで、米国の自動車販売は向こう25年間で40%減少すると予想した。

それによると、米ゼネラル・モーターズ(GM)とフォード・モーターは、米国およびカナダの組み立て工場を合計で現在の30カ所から17カ所に減らす必要に迫られる。約2万5000人の労働者が失業する。

メーカーは現在、販売台数減少による減収を運送関連サービスの収入で補おうと動き出している。

フォードとジャガー・ランドローバーは、自動運転車ではないがカーシェアリングの実証実験に乗り出した。自動運転車と組み合わせれば、こうしたアイデアに弾みがつくかもしれない。GMは配車サービスの米リフトの株式10%を取得した。

しかし米国で「L4」と呼ばれる完全自動運転車への移行に時間が掛かるようなら、メーカーにはその間、思いがけない利益が転がり込むかもしれない。L4の一段階手前である「L3」技術は人が運転に関わる必要があるが、交通渋滞への対処や事故回避のためのブレーキ、適切な車間距離維持、駐車などは自動で行う。これらの機能を備えた自動車は値段設定が高くなり、特に高級モデルでは収益性が高まりそうだ。

電気自動車の米テスラ・モーターズは昨年、「モデルS」セダンでこうした「オートパイロット」機能が使えるようにした。最低価格は7万6500ドルだ。

独ダイムラーが新型「Eクラス」その他の車種で提供を始めたL3技術、「メルセデス・ベンツ・インテリジェント・ドライブ・システム」の場合、5万3000ドルの自動車に搭載すれば価格を4500ドル上乗せできる。

フォルクスワーゲンのアウディやBMWも同様のシステムを提供。GMも来年、そうした技術の提供を計画している。

こうしたシステムを自動車メーカーに販売する部品企業も勝ち組だ。また、シリコンバレーの両雄、グーグル親会社のアルファベットとアップルも勝ち組に入るかもしれない。

グーグルは自社の自動運転ソフトウエアを世界中の自動車メーカーにライセンス提供する可能性がある。アップルは口が堅いが、採用している人材から察するに、アップルブランド車の導入を計画している可能性がある。「iPhone(アイフォーン)」や「iPad(アイパッド)」のように、製造は外注するかもしれない。

タクシーやバス、ウーバー、配達トラックの運転手は負け組だ。ミシガン大学のエコノミスト、マーティン・ツィマーマン氏の試算では、米国だけで労働人口の2%近くに上る260万人の職が失われる恐れがある。

自動運転車が広く普及して事故が防げるようになれば、自動車保険も悪影響を受けそうだ。スイス再保険のシニア・バイス・プレジデント、ケート・ブラウン氏は最近、自動運転車に関する会合で、欧米で自動車保険の保険料が急減し、大打撃を被るとの見通しを示した。

(Joseph White and Paul Ingrassia記者)



[デトロイト 26日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中