最新記事

アイスランド

パナマ文書に激怒するアイスランド国民の希望? アイスランド海賊党とは

2016年4月11日(月)15時45分
Rio Nishiyama

海賊党とは?

 海賊党はそもそも、2006年にスウェーデンで「デジタルテクノロジーをつかって政治をより良くする」ことを標榜し、「著作権法の改正」「オンライン上のプライバシー保護」「情報の自由なアクセス」などをマニフェストに掲げ設立された。その躍進はインターネットを通じて瞬く間にヨーロッパ中に広まり、同時に海賊党の政策もより包括的なものになっていく。その中には、「液体民主主義」と呼ばれる、インターネットを通じたオンライン投票・熟議システムの導入や、デジタルテクノロジーを使った政治の透明性の推進なども含まれる。2011年、海賊党はドイツ・ベルリンの市議選で得票率8.9%を得て第三党となる。また、スイス、オーストリア、チェコ、スペインの地方議会でも議席を得る。2009年と2014年の欧州議会選挙ではそれぞれスウェーデンとドイツから議席を獲得。2013年にアイスランドの総選挙で得票率5・1%で3議席を獲得し、はじめて国政に進出した

 しかし、「デジタルテクノロジーを駆使した政治運営」がはじめこそネット世代の若者に支持されたものの、経験不足の露呈や内部分裂などから最も趨勢を誇ったスウェーデンやドイツではここ数年支持率が低迷している。

 そこへ来て、アイスランドでの海賊党のこの躍進である。

 筆者はそんなアイスランド海賊党の人気の秘密を探るべく、パナマ文書流出のちょうど一か月前にアイスランドで現地調査を行っていた。

人気を博すアイスランド海賊党

 アイスランドで海賊党は少なくとも1年以上、与党を抑えて国内支持率一位を獲得し続けている。メディアの調査では支持率は大体35%〜40%くらいを推移。党員は2000人くらいだが、誰でも参加できるアイスランド海賊党の公開板の人数は6000人を超える。人口30万人の国でこれは大きな数字だ。

opinion polling for the next icelandic parliamentary election.png

アイスランドの「次の選挙でどの政党に投票するか」を表す世論調査。(左2013年3月、右2016年3月) 紫の線が海賊党


 ではアイスランド海賊党の人気の理由は何なのだろうか?

 党員によると、様々な理由が組み合わさって今回の支持率上昇につながっているそうだが、一番の理由は「従来型の政治に人々が辟易している」ことにあるのだという。アイスランドでは長い間中道右派の政党が連立政権を握り、政治腐敗が常態化していた。加えて2008年のアイスランド金融危機で国民の政治不信はピークに達する。それを受けた2009年の選挙では長年政権を取っていた独立党が大幅に議席を減らし中道左派政権が誕生するものの、その政権運営に国民の不満が続出。2013年の選挙では再度独立党を中心とする右派政権へと回帰した。

 期待を持って投票した左派政権への落胆、そして旧来の腐敗した政権への逆戻り―そんな状況に悲観し、政治に対してあきらめていた国民の気持ちを吸い上げたのが海賊党だった。

 海賊党のやり方はユニークだ。まず、海賊党はトップダウンの政策決定をまるごと否定する。それだけでなく、マニフェストに書かれたふたつの大きな政策(憲法改正とEU加盟)にすら、「これ」といった解答を用意していない。憲法を改正すべきかすべきでないか、EUに加盟するべきかそうでないか―それを決めるのは国民であって、党ではない。海賊党は、国民が議論を尽くすための情報を与え、専門家と利益団体をつなぎ、国民にとって最適の解を出すための「プラットフォーム」として存在する―それが彼らの考えなのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送中国サービスPMI、8月は53.0 15カ月ぶ

ワールド

豪GDP、第2四半期は約2年ぶり高い伸び 消費支出

ワールド

タイ与党、下院解散を要請 最大野党がライバル首相候

ビジネス

政府と連絡とりつつ為替市場の動向モニターしていきた
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 8
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中