最新記事

汚職

ブラジルのルラ前大統領、入閣で地に墜ちた輝かしい過去の栄光

国民の多くは権力者が奪い、労働者がその代償を払っていると感じている

2016年3月27日(日)14時37分

3月20日、支持率90%近くという高水準で大統領職を退いた約6年後、ルラ前大統領(写真)は再びブラジル政治の中心に立つことになった。ブラジリアで17日撮影(2016年 ロイター/Adriano Machado)

 支持率90%近くという高水準で大統領職を退いた約6年後、ルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ前大統領(70)は再びブラジル政治の中心に立つことになった。

 国営石油会社ペトロブラスを巡る汚職スキャンダルが拡大する中、マネーロンダリング(資金洗浄)などの容疑で訴追されたルラ前大統領は、17日に官房長官に就任した。入閣によって、同氏に対する捜査や起訴には最高裁の承認が必要になり、捜査はより困難になる。同氏の入閣は捜査逃れが目的との見方もでるなか、18日にブラジル最高裁のジウマル・メンデス判事がルラ氏の官房長官への就任を差し止める判断を下した。ルラ氏の弁護団は、最高裁大法廷に抗告を行い、同判事の判断を覆すよう求めており、今後の展開は不透明な状況に陥っている。

 ただ、ルラ氏の官房長官就任は、過去に同氏を称賛し聖人視するほどだった国民には予想外だった。長年の支持者でさえ、忠誠心が揺らいでいると話す。

 製鉄所の工員から大統領まで上り詰めたルラ氏は、最近まではブラジルの象徴だった。同国経済は数十年にわたり不安定だったが、現在では南米で最大規模に成長した。好調なコモディティー輸出を背景に、ルラ氏の大統領在職中に4000万人の国民が貧困を脱した。

 ルラ氏の人気は非常に高く、後任を選ぶ大統領選では、当時は選挙経験のなかったルセフ氏に投票するよう有権者に呼び掛け、ルセフ氏は大統領に就任した。ルセフ大統領は1期目は精彩を欠いたものの、ルラ氏の後押しもあり2014年に再選を果たし、与党労働党は4期連続で政権を担うことになった。ただ当時は、国民の大半はまだ経済鈍化の影響を受けておらず、汚職スキャンダルもルラ氏とルセフ氏に及んでいなかった。

 ペトロブラスとの取引をめぐり、党幹部らが業者から数十億ドル相当を不正に得たとされる汚職スキャンダルは、ルセフ大統領の再選後に拡大した。野党勢力はルセフ大統領の弾劾手続きを進め、ブラジル経済はリセッション(景気後退)に直面し、昨年はインフレ率が10%を超える中、150万人が職を失った。

 ブラデスコのエコノミストは、2014年以降に中間層から脱落した国民は370万人に上ると推計した。

国民の感じる「裏切り」

 現地メディアでは不正に関与したとされる人物のぜいたくな生活ぶりが連日報じられ、苦労して得たものを失った国民の多くは「裏切り」と感じている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中