最新記事

全人代

台湾問題で習近平が激しい警告――全人代の上海市代表団分科会で

2016年3月8日(火)16時39分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 これに対し、CCTVでは大陸側の絶賛を伝えるとともに、台湾の国民党議員や民進党の若者の声も伝えた。民進党の若者は、蔡英文・次期総統が「九二コンセンサス」に対して「明確な意思表示をしていない」などと、大陸側が言わせたい声を伝えた。

新五カ年計画に中台結ぶ高速鉄道

 3月5日午前の政府活動報告で李克強首相が新五カ年計画(2016年~2020年)を発表したあと、その詳細に関して多くの情報が出ている。

 その中の一つに中国と台湾を結ぶ「中台高速鉄道建設」計画がある。

 8万字から成る新五カ年計画なので、筆者も実物の全文に全て目を通しているわけではないが、たとえば「中華論壇」やその他多くのウェブサイトなどが「京台(北京‐台北)鉄道」計画が新五か年計画に記入されたと報じている。

 もともと福建省福州と台湾の台北をつなぐ高速鉄道に関しては、馬英九氏が総統に当選した2008年から提案され、「九二コンセンサス」の象徴として中台間で話し合われてきた。

 台湾人の抵抗勢力の抗議に遭い、なかなか実現されないままになっていたが、新五カ年計画の一環として正式に書きこまれたとなれば、実現に向かって一歩、踏み込んだことになる。

 海底トンネルにするのか橋を架けるのかは、まだ不明だが、中台鉄道は「北京-台北」を結ぶ鉄道として位置づけられているので、これはまさに「中台統一」を鉄道から実現させようという計画だということになろう。

 台湾では「大陸の勝手にはさせない」と厳しい反発の声が広がっており、特に習近平国家主席の上海代表団分科会における講話と絡めて「両岸統一を加速させようとするシグナルだ」として抗議運動が起きている。

二つの百年

 習近平政権には「二つの百年」という、壮大な計画がある。

 2020年と2050年が、その二つで、2021年が中国共産党建党100年であることから、キリのいいところで2020年を最初の「百年」にした。これは習近平政権期間内である。

 したがって新五カ年計画は、習近平政権が「一つ目の百年」を輝かしく飾るエポック・メイキングな年とならなければならないはずだ。

 しかし台湾にはまもなく民進党政権が誕生する。それにより、習近平が描く「中国の夢」の一つは、まず台湾問題で挫折しそうだ。

 それを食い止めるために行なったのが上海市代表団分科会における習近平講話とみなすことができる。こういったことは、これまでに見られない異例の現象なので、習近平の心の焦りをうかがい知ることができる。

 ちなみに、もう一つの百年は中国建国100周年記念である2049年を、キリのいいところで切った「2050年」である。2050年までは生きていないだろうから、習近平国家主席としては2020年の一つ目の百年に全てを賭けている。

 習近平政権の焦りは、ここにも表れていると言えよう。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中