最新記事

北朝鮮

日米韓は「北朝鮮を追い詰めているフリ」など止めるべきだ

国連の制裁には、豊富なウラン資源を持つ独裁国家に核開発を断念させるだけの効力はおそらくない

2016年1月7日(木)16時00分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

核開発はやめない これまでに行った制裁では、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の暴走を止めることはできなかった(2015年5月に北朝鮮の朝鮮中央通信〔KCNA〕が公表した写真より) KCNA-REUTERS

 北朝鮮が4度目の核実験を強行したことを受け、国連安全保障理事会は6日、緊急会合を開き、追加措置に向けた作業に着手する方針を表明した。国連の制裁が強化されるのは間違いないだろう。

 ここでひとつの疑問が湧く。国際社会は何故、もっと早くからより徹底的な対北制裁を敷き、核開発を断念させなかったのか。それをしなかったせいで、衝撃波が地球を3周もするような「最終兵器」を金正恩氏が獲得するのだとしたら、まさに悪夢だ。

 この疑問に対する答えは簡単だ。これまでも、国連制裁が不十分だったわけではない。おそらく国連制裁には、北朝鮮に核開発を断念させるだけの力がないのだ。

 そもそも何故、北朝鮮は国連制裁をものともせずに核開発を続けられるのか。その理由のひとつは、北朝鮮には豊富なウラン資源があるからだ。核物質を輸入する必要がないから、国連制裁では遮断できない。

 そしてより大きな理由は、北朝鮮が独裁国家だからだ。かつて中曽根康弘元首相は防衛庁長官在任時、日本の核武装の可能性について極秘裏に調べさせた。その結論は、「技術的には可能だが、国土の狭い日本には核実験場がないのでムリ」というものだったという。

 日本が狭いというなら北朝鮮はもっと狭いが、言論の自由がないので、住民の反対運動など起きようもない。そもそも国連制裁をもたらすような無謀な政権は、民主主義社会でならば巨大なデモを呼び起こし、すぐに倒されてしまうだろう。

 しかし北朝鮮でそんなことをすれば、軍隊に虐殺されるか、政治犯収容所で拷問され処刑されてしまう。

(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺...北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」

(参考文献:国連報告書「政治犯収容所などでの拷問・強姦・公開処刑」

 そして、金正恩体制が核開発を続けるもうひとつの理由として、「止める理由がない」ということが考えられる。

 独裁国家の富は権力者に集まる。国連制裁は確実に北朝鮮経済を苦しめているが、特権階級は比較的打たれ強い。民が苦しんでいても、政権を失う心配もない。それに核開発を放棄しても、米国と仲良くできる可能性はほとんどない。

 ナチス・ドイツのユダヤ人収容所にも匹敵するとされる政治犯収容所を抱えた北朝鮮の首脳と握手することなど、米国の大統領には考えられないだろうし、北朝鮮の独裁者もまた、恐怖政治の中核をなす収容所の清算など不可能だからだ。

 だったら、どうすれば良いのか。

 恐怖政治を否定する民主主義的な政権を、北朝鮮に成立させるのである。そしてそのためには、北朝鮮国民による変革を支援せねばならない。

 それには、膨大な労力とコストがかかる。それを自国民に納得させることは、日米韓などの指導者には至難の業だろう。しかしだからといって、効果のない国連制裁を続けていては、北朝鮮の「核のリスク」はますます大きくなる。

 国際社会はいいかげん、「北朝鮮を追い詰めているフリ」を止めるべきなのだ。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 』(宝島社) 『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)がある。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

衆院選きょう投開票、自民が終盤まで優勢 無党派層で

ワールド

イスラエル首相、トランプ氏と11日会談 イラン巡り

ビジネス

EXCLUSIVE-米FRB、年内1─2回の利下げ

ワールド

北朝鮮、2月下旬に党大会開催 5年に1度の重要会議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 3
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本版独占試写会 60名様ご招待
  • 4
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 5
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 6
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 7
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 8
    心停止の8割は自宅で起きている──ドラマが広める危険…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中