最新記事

シリア

製油所空爆だけではISISの資金源は潰せない

有志連合は石油収入を断とうとしているが、真の問題は支配地域の収奪システムだ

2016年1月19日(火)16時00分
アレッサンドリア・マシ

強奪も資金源  ISISの「首都」ラッカで、没収したたばこを燃やそうとする戦闘員 REUTERS

 ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)は「世界で最も裕福なテロ組織」と言われている。彼らは石油と天然ガスの売却収入や、支配地域の住民に対する徴税と強奪によって豊かになった。

 アメリカ主導の有志連合は、ISISの支配下にあるイラクとシリアの製油所を空爆し、資金源を断つことに力を入れている。だが、ISIS支配地域から流出した内部資料によれば、この作戦だけでISISの財政に打撃を与えるのは難しそうだ。

 現在の彼らは、支配地域の住民や通行者からの金品の没収によって資金の大半を稼いでいる。つまり、収入の柱は徴税と強奪のシステムなのだ。

 アメリカのシンクタンク民主主義防衛財団の調査担当副会長ジョナサン・シャンザーは、ISISには「徴税やその他の資金調達」システムがあると指摘する。「彼らの財源は支配地域と密接に結び付いている」

 支配地域の獲得と維持は、ISISの戦略に欠かせない要素だ。支配地域の資源と住民の収奪が不可能になれば、組織の存続そのものが危うくなる。

 今回、流出して内容が明らかにされたのは「イスラム国運営の原則」という内部文書。米シンクタンク中東フォーラムの研究員アイメン・ジャワド・アルタミミが翻訳した。それによると、「ISISは組織の維持と拡大を可能にしている土地(支配地域)の存在なくしては存続できない」という。

 ISISはイラクとシリアにまたがる支配地域を19の行政区に分け、それぞれに軍事と統治の拠点を置いている。各行政区には公共サービス部門と、予算と徴税を担当する財務部門が設けられている。

国境周辺地域は「宝の山」

 アルタミミが貴重なISISの予算関連文書を入手したのは15年10月。シリアのデリゾール行政区の財務部門が発行した文書で、それによると14年12月~15年1月の利益の約3分の2が、徴税と強奪によるものだった。同期間の総収入843万8000ドルのうち、金品と土地の没収による収入は377万4000ドル、全体の44%に上る。

 ISISは家屋、資産、土地、家畜、禁制品(たばこや酒類)、車両、現金の押収による収入をまとめて「没収」と呼んでいる。この期間中、デリゾール行政区では家屋79軒、車両91台、現金50万ドル以上が没収された。

 没収の対象は、ISISの兵士の恣意的な判断で決まる。反ISIS活動家によると、最も多い理由は「背教行為による逮捕」だ。例えば、ISISは背教者や反ISIS派と見なされた住民の自宅を差し押さえることができる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中