最新記事

密航船

難民の子供の水死、2カ月で90人

密航業者の「悪天候割引」や「子供割引」にすがって危険を買う親たち

2015年11月2日(月)18時09分

なぜこんな目に トルコ沖を漂流していて漁船に助けられた1歳半の男の子 Giorgos Moutafis-Reuters

 難民の子供で3歳のアラン・クルディの死体がトルコの海岸に打ち上げられ、世界に衝撃を与えたのは9月。だが、援助関係者によると、その後も90人以上の子供たちが溺れ死んだという。しかも状況は悪化の一途で、数週間もして冬になれば、死にかけた子供たちが数珠つなぎになって漂着するようになりかねないと、彼らは警告する。

 季節の変化とともに、トルコからギリシャにエーゲ海を渡る旅は日増しに危険度を増している。国際移住機関(IOM)によると、9月2日~10月26日の間にギリシャへ渡ろうとして死んだ子供の数は69人。翌々日の水曜日には11人が溺死、翌木曜日もさらに11人が命を落とした。何とか生き残っても、発見されるまでに何時間も海を漂流していた子供や、到着時には低体温症にかかっている子供も多い。

 子供の犠牲が増えているのは、天候にも関わらず難民の数が増えているからだ。IOMの推定では、先週は1日当たり9000人以上の難民がギリシャに到着、今年最高を更新した。ヒオス島では、これまで1日平均300人だった難民数が、先週は1日2000人に達したという。

 先週水曜の事故では、少なくとも300人の乗客を乗せた船が強風で転覆。救出された242人のうち15人は10歳から生後3か月の子供で、低体温症のため直ちに病院に運ばれた。またUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によれば、木曜にも2つの事故があり、一方では22人が死亡、24~27人が行方不明。もう一方の事故では19人が死亡。うち11人は赤ん坊3人を含む子供だった。捜索が進めば、死者数はもっと増えるだろう。

「ますますひどいことになってきそうだ」と、UNHCRの地域広報を担当するロン・レッドモンドは言う。「多くの人は無事に渡りきれると信じて海に乗り出す。密航仲介業者が大丈夫だと言うからだ。海のことをまったく知らない難民もいて、業者の言うことを信じるしかない」

 難民が無謀な船旅に出る理由はそれだけではない。密航業者は最近、従来の小さなゴムボートの代わりにもっと大きな木造船を使い始めたと、レッドモンドは言う。荒海のなかに人を送り出すためだ。数百人が乗れる木造船で、大きくて安全だから、という理由でゴムボートより高い1800~2500ユーロの運賃をとる。実際には、すし詰め状態に人が詰め込まれたこれらの船は「死への片道切符」以外の何物でもない、とレッドモンドは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ自動車販売台数、4月も仏・デンマークで大幅減

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の

ビジネス

LSEG、第1四半期収益は予想上回る 市場部門が好

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中