最新記事

中国

なぜ政権寄りのネットユーザーが増えているのか

2015年9月17日(木)16時14分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

 日本でも「バズる」(ネットで爆発的に注目されること)のは論理や事実に基づく文章ではなく、勢いやノリが生み出す面白さだ。「ステマ」(ステルスマーケティング)の世界に中国共産党は手を突っ込んだと考えるとわかりやすい。

政府批判こそが権力である

 周のような新世代の御用ブロガーだけではない。アニメ、アイドル、"踊ってみた動画"などなど若者に届くツールが動員されている。この変化は習近平講話によって指示されたものだ。2013年8月19日の全国宣伝思想工作会議で、習近平は次のような言葉を発している。

「彼ら(ネット世論:筆者註)が運動戦・遊撃戦を展開するならば、我々も正規戦・陣地戦でのみ戦うことはできない。臨機応変に対処し、彼らの手段を我々も活用し、敵の奇を付いて勝利しなければならない。」

 厳しい言論弾圧、思想統制に加えて、若者に届く新たなプロパガンダ・ツールという両輪で社会秩序の維持を目指す習近平体制。彼らの取り組みは成功しているのだろうか。

 一つ注目すべき状況がある。インターネットの普及後、大学生を中心として若者が"政治に目覚める"場合、これまでは基本的に反政府、反体制、反共産党というベクトルに向かっていた。

 ところが最近では逆に、「ひたすら政府を叩くやつらはおかしい」という反・反体制に"目覚める"ケースも少なくない。金をもらって書き込みをしていた「五毛党」ではない。自らの意志で政府を擁護する「自干五」(自分の意志で書き込みをする五毛党)の誕生である。

 今年7月には、共産主義青年団(14~28歳の若者で構成される共産党の下部組織で、「共青団」と略される)のネットボランティアとして活動していた大学生が、呼び出しを受けて殴打される事件が起きた。警察はけんかとして処理し双方を処罰したが、周小平や各地の共青団関係者が「献身しているネットボランティアを守れ」と猛反発して話題となった。その後、ネットユーザーの調査でその大学生の日常の活動が明らかになったが、政府批判的なネットユーザーを見つけてはひたすら罵倒するという「愛国活動」を行っていたことが判明している。

 共青団のネットボランティアとは、今年2月に動員令が通達されたもの。全団員の20%との目安で大学や企業の支部に割り当てが決められたため、合計で1000万人以上のネットボランティアが不適切な書き込みがないかに目を光らせていることになる。もっとも、共青団団員のほとんどは「みんなが入っているから」「就職に有利になるかも」程度の軽い気持ちで入団しているので、どれほど真剣に活動しているかには疑問符がつくが、中には前述の大学生のように、愛国心からキーボード戦士となっている若者もいるわけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国産業相が再び訪米、関税協定の最終合意へ詰めの協

ワールド

北のミサイル発射、「日本も把握」と高市首相 EEZ

ビジネス

米TI、第4四半期見通しは予想下回る 関税影響で需

ワールド

米国大豆、中国向け新規販売契約なし 農家経営破綻の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない「パイオニア精神」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    増える熟年離婚、「浮気や金銭トラブルが原因」では…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中