最新記事

中東

コバニ奪還で揺らぐ「イスラム国」の支配

2015年1月28日(水)17時33分
リチャード・ホール

世界が見詰めた効果

 コバニにクルド系が結集した理由は分かりやすいが、それはアメリカとISISにとっても同じだった。

 攻防戦の様子はテレビで世界中の家庭に放送され、防衛拠点が1つ奪われるたびに世界中が知ることになった。ジョン・ケリー米国務長官が、コバニを救出しないことは「倫理上、非常に困難」だと宣言したのもこのためだ。

 アメリカとISIS、どちらもすぐに宣伝効果を認識し、多くの資源を攻防戦に投入した。もちろんそこにはコストが生じる。

 シリア内戦を監視する人権団体によると、コバニ攻略で1000人以上のISISの兵士が死亡した。戦いの最終盤、ISISは兵士不足のために経験の浅い、10代の兵士を前線に投入したと言われている。

 物理的な兵力の損失だけでなく、今回の敗北はISISの士気にも影響を及ぼしそうだ。

 ISISは、神が勝利を与えると宣伝している。昨年イラクとシリアで勢力を拡大していた時、その宣伝は兵士を集める手段として有効だった。しかし今は組織の限界が露呈してしまった。

 またコバニと同様、他の地域でもISISの支配は揺らいでいる。

 クルド人部隊は最近、多数のクルド系住民がISISの残虐な支配をのがれて避難していたイラク北部サンジャールの山岳地帯でISISの包囲網を破った。

 イラク軍はバグダッド近郊のディヤーラー県でISISへの攻勢を強めていて、クルド系武装組織と協調してこの夏に「イスラム国の牙城」であるモスルの攻略を開始する準備を進めている。

 コバニを「クルド人のスターリングラード」と呼ぶのも、「イスラム国のワーテルロー」と呼ぶのも尚早だろう。それでも勝利であることに変わりはない。そしてこの勝利は、ISISと戦う有志連合にとってさらなる勝利への第一歩となる。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利下げ急がず、物価懸念が雇用巡るリスクを上回る=米

ワールド

印ロ外相がモスクワで会談、貿易関係強化で合意 エネ

ビジネス

米新規失業保険申請1.1万件増の23.5万件、約3

ワールド

ノルドストリーム破壊でウクライナ人逮捕、22年の爆
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精神病」だと気づいた「驚きのきっかけ」とは?
  • 2
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自然に近い」と開発企業
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 5
    夏の終わりに襲い掛かる「8月病」...心理学のプロが…
  • 6
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 7
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 8
    米軍が長崎への原爆投下を急いだ理由と、幻の「飢餓…
  • 9
    ドンバスをロシアに譲れ、と言うトランプがわかって…
  • 10
    フジテレビ、「ダルトンとの戦い」で露呈した「世界…
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中