最新記事

グルメ

美味しいビールほど冷やすと台無しに?

「キンキンに冷やす」という間違った常識が、せっかくの芳醇な味わいを殺してしまう

2013年7月22日(月)12時47分
マーク・ギャリソン

ぬるめがベスト 風味の豊かなビールほど、飲むときの温度が肝心だ Alison MikschーStockfood Creative/Getty Images

「最近飲んだビールの中で最悪だったのは、ブルックリン・ブルワリーのペナントエール55だ」。

 そんなことを言ったら、友人は仰天するだろう。私は10年近くこの醸造所の近所に住み、ペナントエールをこよなく愛する地ビールの大ファンなのだ。

 しかし、確かに最近飲んだペナントエールにはいつもの魅力がなかった。感じられるのは炭酸の泡だけ。一口すすって、がっくりきた。

 おいしいビールがなぜこんなひどいありさまに? 古かったのか、つぎ方が悪かったのか? グラスが汚れていたのか?

 いや、冷え過ぎていたのだ。

「あら」をごまかすための戦略

 ビールの品ぞろえはなかなかの店だったのに、キンキンに冷やしたペナントエールを霜付きジョッキで出してきた。店側は善意でやったのだろうが、地ビールをそんな状態で飲むのは無意味だし、罰当たりですらある。

 常温のグラスに変えてもらい、待つことしばし。やがてビールは冷えに打ち勝った。だがこの店で地ビールに初めて挑戦した客だったら、なぜ高い金を払ってまずいビールを飲むのかと首をかしげただろう。

 適温が4度以下というビールで、飲む価値のある物はない。ダブルインディア・ペールエールやビタービールなど苦みの強いタイプは、12〜13度が最もうまい。なのに地ビールが売りのバーでさえ、氷のように冷やして出していることがほとんどだ。

 なぜこんな習慣ができたのか。上質な地ビールは冷やし過ぎると風味が飛んでしまうが、味気ない大量生産品は冷やすことで「あら」がごまかせる。だからバドワイザーやミラーの広告は、霜付きジョッキや雪山、ビキニ姿の美女だらけなのだ。

 飲料コンサルタントのスー・ラングスタッフが、私が飲んだペナントエールがまずかった理由を説明してくれた。低温では香りの主成分が揮発しない、つまりフルーティーだったりフローラルだったりという、作り手が意図した独特な香りが封じ込められてしまうのだという。

 一方で、冷やせば炭酸の刺激が強まるから、味の薄い大量生産品には好都合。大手は自社製品の風味のなさを自覚しているからこそ、冷たさを強調して売っているのだ。

霜付きジョッキよりワイングラスで

 ワインや蒸留酒の世界では、物によって適温が異なることは常識だ。高級ブランデーをオン・ザ・ロックで注文する客を見たら新米バーテンダーだって、金をドブに捨てていると思うだろう。だがビールに関しては、そうした知識が広まらない。

 一部のメーカーは、ビールはとことん冷やすものという先入観を変えようとしている。彼らは、ピルスナーに代表されるライトなタイプは4〜7度、やや濃厚なアンバーやボックビールは少し温度を上げ、インペリアルスタウトなどのヘビー級は10〜13度で飲むことを勧めている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ジャワ島最高峰のスメル山で大規模噴火、警戒度最高に

ビジネス

中国、債券発行で計40億ユーロ調達 応募倍率25倍

ビジネス

英CPI、10月3.6%に鈍化 12月利下げ観測

ビジネス

インドネシア中銀、2会合連続金利据え置き ルピア安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中