最新記事

人権

収容所国家中国の深い闇

アーティストの艾未未は釈放されたが、中国共産党は「アラブの春」の飛び火を恐れて天安門事件以来最も過酷な弾圧を続けている

2011年8月3日(水)12時56分
メリンダ・リウ(北京支局長)、アイザック・ストーン・フィッシュ(北京)

黙して語らず 約3カ月ぶりに釈放された艾(6月23日、北京のアトリエで) David Gray-Reuters

 アーティスト人生で最も注目を集めたパフォーマンスは、柄になく控えめだった。中国で最も著名な芸術家で反体制活動家の艾未未(アイ・ウェイウェイ)が6月22日、11週間ぶりに釈放されたが、見るからに精気がなかった。

「短いほうが元気が出る」ので自分で髪を切ったと、北京のアトリエで報道陣に冗談を言ってみせたが、拘禁生活の過酷さは隠せない。以前より痩せ、目には恐怖の色が見て取れた。

 1年間発言を禁じられているとの理由で、拘禁生活についてはコメントを拒否。本当に自由になったのかは分からないと、本誌記者に話した。「裁判は行われないはずだが、先のことは分からない」

 拘禁中に拷問されたのかという問いを投げ掛けると、一瞬沈黙してこう答えた。「何も言えない。申し訳ないが」

 温家宝(ウエン・チアパオ)首相のヨーロッパ訪問直前の釈放には、政治的な意図が込められている。国際社会では、中国に対する圧力が高まっていた。イギリスとドイツの政府は、艾の釈放を強く働き掛けていた。ロンドンの現代美術館テート・モダンの建物には、「艾未未を釈放せよ」という文字が描かれ、スイスのバーゼルで開かれた美術見本市「アート・バーゼル」では、来場者が艾のお面をかぶって抗議の意思表示をした。

「(中国政府は)釈放する以外に選択肢がなかった」と、欧米諸国のある駐中国大使(匿名を希望)は言う。さもなければ、温のヨーロッパ訪問が「艾未未一色」になっていた。

 艾はこれまで、メディアのインタビューやツイッターでの発言、芸術作品などを通じて露骨に政治的なメッセージを打ち出し、政府の怒りを買ってきた。今年1月には、上海のスタジオが当局に取り壊された。

ここ10年で最悪の弾圧

 そして4月3日、香港行きの飛行機に乗るために北京の空港に姿を現したところを逮捕された。妻の路青(ルー・チン)とアシスタント数人も警察に連行されて取り調べを受けた。

 一部のメディアは、今回の釈放を中国政府の軟化姿勢の表れと評しているが、実際には89年の天安門事件以来、今ほど容赦なく反体制派が弾圧された時期はない。

 この数カ月で「様相が一変した」と、北京駐在のある欧米外交官は述べている。国連もこの春、中国で「本人の意に反して姿を消す人が相次いでいる」ことに懸念を表明する異例の報道声明を発表した。

 抑圧が強まっている一因は、中東・北アフリカ諸国の民衆革命にある。中国共産党指導部は、「アラブの春」に刺激されて国民が政治的権利を要求し始めることを警戒している。

 最近の4カ月だけで少なくとも500人が拘束されたという推計もある。中国当局は報道の自由を大幅に制限し、ネットや携帯電話の回線を突然遮断するケースもあるようだ。

 その上、人権問題を扱う弁護士を拷問したり連れ去ったりもしている。国際人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルによれば、「20万4000人いる弁護士のうち、危険を冒して人権問題を扱う人は数百人しかいなくなった」らしい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム次期指導部候補を選定、ラム書記長留任へ 1

ビジネス

米ホリデーシーズンの売上高は約4%増=ビザとマスタ

ビジネス

スペイン、ドイツの輸出先トップ10に復帰へ 経済成

ビジネス

ノボノルディスク株が7.5%急騰、米当局が肥満症治
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中