最新記事

W杯

なぜ「フットボール」を「サッカー」と呼ぶ?

世界では「フットボールW杯」が一般的なのにアメリカなどでは「サッカー」という呼称が使われる理由

2010年6月11日(金)17時51分
ブライアン・フィリップス

このスポーツは何?  アメリカ、カナダ、オーストラリアではサッカー(6月5日、ヨハネスブルグで行われたアメリカ対オーストラリアの親善試合) David Gray-Reuters

 ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会が日本時間の今夜、開幕する。今週末に対戦するB組のアメリカ代表とイングランド代表。同じ英語を公用語としながら、このスポーツをそれぞれsoccer(サッカー)、football(フットボール)と異なる呼び名を使う2国。世界では「フットボール」が一般的なのに、なぜアメリカ人は「サッカー」と呼ぶのだろうか。

 サッカーは「アソシエーション・フットボール(協会式フットボール)」の省略形だ。サッカーとアメリカンフットボールは両方とも、19世紀初頭のイギリスで上流階級が通う学校で人気のあったスポーツ群から派生し、大西洋を渡ってアメリカに広まった。このスポーツ群に共通していたのは、対戦相手の陣地にボールを前進させ、相手サイドの最終ラインにスコアすること。ただしルールは地域によってまちまちだった。

 最終的にはイギリスで標準ルールとして定着したものが「アソシエーション・フットボール」として知られるようになり、アメリカでは別のルールが定着していった。アメリカではそれを「フットボール」と呼ぶようになり、イギリスで定着したものは「association(アソシエーション)」の「soc」からとって俗語で「soccer(サッカー)」と呼んだ。

 フットボールの起源には諸説あるが、現在のような形式になったのはイギリスの寄宿学校が始まりといえるだろう。当時はそれぞれの学校が独自のフットボールをプレーしていたため、学校同士の対戦では混乱が生じていた。そこでルールを統一しようという試みが何度となく行われたが、学校同士の意見が対立し、なかなか実現しなかった。

ラグビーとアメフトとの決別

 結局、1863年10月に11の学校の卒業生代表が歩み寄ってこの問題を解決するため、ロンドンにあるパブ「フリーメーソンズ・タバーン」に集まった。自分たちを「フットボール協会」と名づけ、2カ月間にわたり会議を行い、「アソシエーション・フットボールのルールブック」をまとめるに至った。

 とはいえ最後の会合では、ラグビー校で伝統的に許されていたルール──すねを蹴り合ったりボールを手に持つこと──の禁止が決議されると、このルールを支持していたロンドン南東部ブラックヒースの代表団が憤慨してフットボール協会から退会した。これがイギリスのフットボールが、アソシエーションとラグビーの2つに別れた瞬間だ。

 広く採用されていなかったり、あまりイギリス的ではない種類のフットボールもそれぞれ独自の道を歩んだ。例えばオーストラリアのフットボールのルールは、フットボール協会の初会合より以前に成文化されていた。イギリス北部シェフィールドのルールは1877年までフットボール協会に認められなかった。

 このようにルールの統一化が進まない混乱のなか、さらに多くのフットボールの形態が生まていった。現在アメリカで高い人気を誇るアメリカンフットボールは19世紀後半に、イギリスからアメリカに伝わったラグビーとアソシエーション・フットボールから進化したものだ。アメリカンフットボールも何年もの間、数あるフットボールの中の1つの種類にすぎなかった。


スラングから生まれた「サッカー」

 世界では、フットボール協会のルールに基づくフットボールは、他と区別するために「アソシエーション・フットボール」と呼ばれ続けた。だが1880年代に、イギリスで使われていた「association」という呼び名から生まれたスラング「soc」が「soccer」になった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

インド、パキスタンによる国境全域での攻撃発表 パキ

ビジネス

日経平均は続伸、米英貿易合意や円安を好感 TOPI

ビジネス

日本製鉄、今期純利益は42%減の見通し 市場予想比

ビジネス

リクルートHD、今期10%増益予想 米国など求人需
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 10
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中