最新記事

テロ対策

第2のアルカイダ、脅威の頭脳と破壊力

2010年5月10日(月)10時00分
ジェレミー・カーン

 08年のムンバイ同時テロまでは、ラシュカレ・トイバがインド国内で外国人を殺さないように注意しているように見えたと、欧米の情報機関関係者は言う。しかし、ムンバイとプーナの事件が象徴するように、ラシュカレ・トイバはインド国内でもテロの「国際化」を推し進める決意でいるらしい。

パキスタン政府の支援を得て

 ラシュカレ・トイバの起源は、80年代のアフガニスタンを舞台にした反ソ連闘争にさかのぼる。この組織の創設者の1人は、ウサマ・ビンラディンと共にアルカイダの前身となるイスラム義勇兵グループを組織したパレスチナ人のアブドゥラ・アザムである。

 ソ連がアフガニスタンから撤退した後、ラシュカレ・トイバはカシミール地方の反インド武装闘争に加わっていった。それを支援したのがパキスタンの情報機関である軍統合情報局(ISI)だ。ISIはラシュカレ・トイバなど、カシミール地方の親パキスタン武装勢力に資金と武器を提供し、部隊の訓練を行った。

 北部の都市ラホール近郊のラシュカレ・トイバの本部がある土地は、パキスタン政府が寄贈したもの。本部の建設費用を提供した人物の中には、アルカイダに資金提供していたのと同じサウジアラビアの資産家が多数含まれている。

 専門家によれば、今日でもパキスタン軍内には、ラシュカレ・トイバを予備役部隊のように考えている人たちもいるという。つまり、もしインドと紛争が起きた場合の戦力として計算に入れている、というわけだ。

 ラシュカレ・トイバが欧米をテロ攻撃の標的にし始めたのは比較的近年のことだが、反欧米的傾向はかなり以前からあった。何しろこの組織が目指すのは、17世紀のムガール帝国のように南アジア全域を支配するイスラム教国を築くことだ。

 それだけでなく、ラシュカレ・トイバはヨーロッパの「再征服」もうたっている。ヨーロッパはもともとイスラム教徒のものだったが、キリスト教の十字軍によって奪われたと主張しているのだ。

 世界のどこにいてもユダヤ教徒とキリスト教徒に対してジハードを行うことがすべてのイスラム教徒の義務であると、ラシュカレ・トイバの創設者の1人であるハフィズ・ムハマド・サイードの息子ハフィズ・タルハ・サイードは最近、公然と呼び掛けている。

 インドや欧米の多くの情報当局者は今、ラシュカレ・トイバのグローバル化するネットワークについて懸念している。アルカイダとの関係は強まる一方だ。05年に起きたロンドン同時多発テロ(後にアルカイダが公式に関与を認めた)では、容疑者のうち少なくとも1人がラシュカレ・トイバのキャンプで訓練を受けていた。

 06年、ロンドンからアメリカへ向かう複数の旅客機を爆破しようとしたテロ未遂事件の容疑者はアルカイダ関係者とされるが、彼らに資金を提供したのもラシュカレ・トイバだ。組織の指導部は「作戦と実戦を通じてアルカイダと目標を共有し、世界的聖戦を支持している」と、元CIAのリーデルは言う。

アルカイダにテロリストを貸し出せる

 一部のアナリストによれば、ラシュカレ・トイバの組織網はアルカイダを上回る。アフガニスタンとパキスタンの国境地帯に封じ込められたアルカイダと異なり、ラシュカレ・トイバは堂々と訓練キャンプを運営している。

 こうしたキャンプで訓練を受けた者は過去20年間で最大20万人に上り、そのうちヨーロッパや北米の出身者は数百人に及ぶと推定されている。彼らの一部は故国へ戻り、組織のメンバーとして秘密裏に活動を続けている可能性がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

戦闘停止巡るパキスタンの取り組み、「重大な」段階に

ワールド

フィリピン3月CPI、+4.1%に大幅加速 輸送費

ワールド

ブルガリア国民のユーロ支持、中東紛争でさらに高まる

ワールド

台湾野党党首、中国へ「平和に向けた歴史的な旅」 習
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 4
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 5
    「王はいらない」800万人デモ トランプ政権への怒り…
  • 6
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 7
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 8
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 9
    トランプ、イランに合意期限「米東部時間6日午前10時…
  • 10
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 3
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 9
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中